神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
受け入れられなかった。

例え誰もが幸福だとしても、俺は受け入れられなかった。

当たり前だ。

シルナがいない世界なんて、受け入れられるはずがない。

俺が元の世界で幸福だと感じるのは、仲間達の中心にシルナがいるからだ。

シルナが真ん中にいないなら、何の意味もない。

クリームの入ってないクリームパンみたいなもんだよ。

いくら外側のパン生地が美味しくても、クリームが入ってなかったら、それはクリームパンじゃないだろ?

ただのコッペパンだよ。

それじゃ駄目なのだ。シルナがいないと、俺は。

それに何より…俺以上に、「前の」俺が許さない。

シルナがいない世界なんて、「前の」俺にとっては、全く無機質の空っぽな世界以外の何物でもないだろう。

俺もそう思う。

何としても、思い出してもらわなければならなかった。

皆の心の中心にいるはずの、シルナ・エインリーという存在を。

だからシルナのいないこの世界は、空虚な偽りの世界に過ぎないのだと。

故に。

俺は、昨日今日と話をした全ての仲間達を、イーニシュフェルト魔導学院に呼び。

怪訝そうな顔をする皆の前で、このことを話して聞かせた。

真実を。

それが、全てを知る俺の義務だと思ったから。

俺が話せば、誰か一人でも、シルナを思い出してくれるかもしれないとも思っていた。

誰か一人でも思い出せば、連鎖反応のように他の皆も思い出してくれるかもしれない。

そんな打算もあった。

…しかし、現実はそんなに甘くなかった。






「…えぇ、と…」

「…」

「…ごめんなさい。…ちょっと…混乱してて、羽久さんが何を仰ってるのか解らないです…」

俺が全てを話し終えると、シュニィは戸惑ったようにそう言った。

…駄目か。

まぁ、そんな簡単には行かないよな。
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