神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「…他に、誰か…何か思い出した奴はいないか?」

俺は仲間達を見渡して尋ねた。

「皆の真ん中に居たんだよ。いつだって、シルナが…」

こうして学院長室に集まって話すときは、いつだってシルナが真ん中に居たんだ。

甘ったるいチョコ菓子食べながら、皆で話してたんだよ。

どうか、誰かそれを思い出してくれ。

しかし…。

「…」

「…」

「…」

誰もが無言で、お互いに困ったように顔を見合わせていた。

…どうやら、誰も思い出していないようだ。

そんな…駄目なのか。シルナのこと思い出して欲しくて、集まってもらったのに。

それどころか。

「…あの、ナジュさん…」

シュニィは困ったような顔で、ナジュの方を向いた。

「…少なくとも、羽久さんは嘘を言ってる訳じゃないみたいですね」 

と、ナジュが答えた。

…俺が嘘を言ってるんじゃないかと疑ってたのか?

あるいは、誰かに騙されてるんじゃないかと…?

おかしいのは、俺の方だって?

馬鹿みたいだ。

どう考えても、おかしいのはシルナの存在を忘れているお前達の方じゃないか。

「思い出してくれよ、頼むから…!」

俺は、必死にそう懇願した。

「イレース、天音、お前達はシュニィにスカウトされたんじゃない。シルナに出会って、シルナの誘いで学院に来たんだ」

「…そう言われても、私にはそんな記憶はありません」

「え、えっと…ごめん、全然分からない…」

イレースも天音も、やっぱり思い出してくれない。

「ナジュ、お前はリリスと融合して不死身の身体になったんだ…!召喚魔導師じゃないんだよ」

「…もしそうだとして、とても不愉快ですね。考えたくないです」

「そうよ、変なこと言わないでよ。不死身なのは私であって、ナジュ君じゃないわ」

ナジュもリリスも、思い出してくれない。

「クュルナ、お前の親友はとっくの昔に亡くなってるんだ」

「えっ…。な、何ですか?いきなり…」

驚くのも無理ないけど。

だけど、本当のことなんだ。

「お前はその親友を生き返らせようと…禁忌を犯した。死者蘇生の魔法を使って、でも失敗して…」

「…やめてください。彼女が亡くなってるなんて…。いくら羽久さんでも、そんなタチの悪い冗談は許せません」

クュルナも、何も思い出してくれない。

それどころか、不愉快そうに顔を歪めるばかり。

これが冗談だったら、どんなに良かったか。

だけど、紛れもなく真実なのだ。
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