神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…俺が冗談で、こんなこと言うと思うのかよ?

言って良いことと悪いことの区別くらいつくよ、俺だって。

信じてもらえないかもしれないけど、でも全部…本当なんだ。

真実なんだよ。全て。

「エリュティア…。キュレム、ルイーシュ。お前達の家族は今よりずっと仲が良くなくて、ほとんど絶縁状態に近いんだ」

「え、いや…。そう言われても…。どうして…?今は普通に…仲が良いのに」

「絶縁状態ですか…。それは心穏やかではいられませんね」

「本当の世界は今より悪いんだって言われて、はいそうですかって納得出来る訳なくね?」

それは…おっしゃる通りなんだけど。

本当の世界では今より良いんだと言われたら、少しは信じる気になるかもしれないが。

本当は今よりずっと悪いんだと言われて、簡単に受け入れられるはずがない。

「無闇も…元の世界では、ずっと『死火』を付け狙う連中から、『死火』と月読を守りながら生きてきたんだ」

「俺が…そんなことを?」

信じられないかもしれないけど、そうだったんだよ。

「『死火』は神殺しの魔法だって噂されて、それで『死火』を狙う奴らがたくさん居たんだ。思い出してくれ…!」

「…」

必死に訴えるも、無闇は釈然としない顔で黙り込む。

駄目だ。全然…信じてもらえない。

「…ってことは、俺もあんたの記憶の中では、今よりずっと不幸な目に遭ってたのか」

ジュリスが、俺にそう聞いた。

あ、いや…ジュリスは…。

「私は?私も不幸だったの?歩いてたらタライが落ちてきたり?」

ベリクリーデも興味津々で聞いてきた。

ベリクリーデの中で不幸の基準、どうなってんの?

どれだけ不幸な人生だろうが、タライはなかなか落ちてこないと思うけど。

ギャグ漫画じゃないんだから。

「いや…お前達二人は…元の世界とあまり変わらないように見えるな…」

少なくとも、見た目だけはな。

詳しく比較した訳じゃないから、分からない。

もしかしたらこの世界のジュリスは、元の世界で経験した苦い思い出を一切経験していない可能性がある。

ベリクリーデも然り。

シルナが存在していないのだから、当然、この二人が現在聖魔騎士団に来るに至って。

俺の知らない、別の経緯を経てここに居るんだろう。

果たして、どういう経緯で聖魔騎士団に入ったのか…。

「マジかよ。俺って元の世界…とやらでも、そんなに幸せだったのか…?」

「どんな世界でも、私は私だってことだね。良かったー」

相変わらず、ベリクリーデは前向きな解釈だ。

…それから。

「…マシュリ、お前も」

「…僕が、何?」

「元の世界だとお前は…ケルベロスと人間のキメラであることを気味悪がられて、冥界から追放されて…その生まれのせいで、酷く苦しんできたんだ」

「…あまり想像したくないね」

悪かったな。

だけど、そうなんだ。俺の知る元の世界では。
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