神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「大丈夫ですか?聖賢者様。やはりお疲れなんじゃないですか?」

「…いや、気にしなくて良いよ」

「でも、そういう訳には…。聖賢者様の御身体は、一人だけのものではないのですから。あなた様がいらっしゃるからこそ、僕達は今日も平穏に日々を暮らせるのです」

…ふーん。

それがどうしたの、って聞きたいね。私としては。

「今日は一日、ゆっくりお休みになられては?聖賢者様は、いつもお忙しいですから…。僕は聖賢者様の御身体が心配なんです」

さっきから、聖賢者聖賢者と。

わざと言ってるんじゃないかと思えてくる。

やめて欲しいよ。本当に。

「心配要らないよ」

「…ですが…」

「それより、君…。天音君」

「はい?」

私は、じっと天音君を見つめた。

「君、天音君だよね?」

「えっ…?そ、それはどういう意味ですか?」

勿論、言葉通りの意味だけど。

「君は天音君なんだよね?他の誰かじゃないよね?」

「え、えぇと…。聖賢者様がどういう意味で仰っているのか分かりませんけど…。…僕は天音です」

「…そう…」

自分を天音君だと思ってる…別の誰かのように見えるけどね。

少なくともこの天音君は、さっきのイレースちゃんのように。

自分のことを、本物の天音・オルティス・グランディエだと思ってるようだね。

幻は、所詮幻か…。

「天音君がいるってことは…他の皆もいるんだろうね」

「は、はい?他の皆とは?」

「ナジュ君とか。令月君やすぐり君、それにマシュリ君とか」

「…」

天音君はポカンとして、しばし私を見つめた。
 
この人、大丈夫だろうか?と思っているのがひしひしと伝わってくるね。

それは私の台詞だから。

「ナジュ君って…ナジュさんのことですか?召喚魔導師の」

「…え」

今度は、私が虚をつかれる番だった。

天音君はいつも、ナジュ君のことを親しく「ナジュ君」と呼んでいたはずなんだけど。

二人共、凄く仲良しだったから。

それに…召喚魔導師?

ナジュ君は…確かに、昔は召喚魔導師だったはずだけど。

リリスちゃんと融合してからは、召喚魔導師とは呼べない存在になった。

ナジュ君自身、自分を召喚魔導師だとは思っていないはずだが…。

「彼なら居ますよ、勿論。聖賢者様が特別に目をかけられている召喚魔導師ですから」

「…」

「それから…令月さんとすぐりさんと言うのは…確か、ジャマ王国にいた元暗殺者のことですよね」

「…そうだけど…」

どうして、わざわざそんな言い方を。

「勿論、彼らも居ますよ、学院に。大恩ある聖賢者様に報いる為、立派な魔導師になると言っていましたから」

…ちょっと、訳が分からなくなってきた。
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