神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「…それって、どういう意味かな?」
「え?どういうって…。…お嫌ですか?そのような言い方をするのは…」
嫌、って言うか…。
「僕も含めて、この学院に居る者は皆、聖賢者様のお力のお陰で、幸福な今があるんです。聖賢者様には、本当に…心から感謝しています」
それはどうもありがとう。
これほど心に響かない感謝の言葉もないね。
私は何もした覚えがないから。
「ねぇ、天音君。一つ聞いても良いかな」
「はい、何でしょう?」
「私、君に何してあげたの?」
「えっ?」
そこまで畏まって、私のお陰私のお陰って言うからには。
きっととんでもなく、素晴らしいことをしてあげたんだろうね?
何したんだろう…。死にかけてたところを救ったとか?
「お、お忘れになったんですか?…いえ、聖賢者様はご多忙ですし、大勢の人々を助けていますから、僕との出会いなどいちいち覚えていらっしゃらないかもしれませんけど…」
「良いから、話してみて。私、君に何したの?」
「それは…忘れもしません。僕はあのとき、医師魔導師として様々な村を旅していて…」
そこは現実と変わらないんだね。
昔の天音君も私と出会う前は、得意の回復魔法を活かして、多くの人々を治療しながら旅をしていたと聞いている。
「しかしある日、僕が滞在していた村で…悲劇が起きました」
…知ってる。
天音君がお世話になっていた村に、ナジュ君が…当時『殺戮の堕天使』と呼ばれていた彼がやって来て。
ナジュ君は天音君に殺してもらおうと、天音君を怒らせる為に村人を虐殺した。
天音君はそのことを許せず、ナジュ君に復讐する為にルーデュニア聖王国に…そして、イーニシュフェルト魔導学院に辿り着いた。
これが、私の知っている…天音君がイーニシュフェルト魔導学院にやって来た経緯だ。
…とても悲しい話だと思う。
この話だけ聞くと、ナジュ君が悪人のように思えるけど。
今なら分かる。
ナジュ君とて、好き好んでそのような凶行に及んだのではない。
彼は自分の事情のせいで、酷く追い詰められていた。
勿論、いかなる理由があっても、殺人は許されないだろう。
だけど、ナジュ君にはナジュ君の苦しみがあった。
それを理解したからこそ、天音君はナジュ君を許したのだ。
私は、そのような経緯があったことを知っている。
天音君が言う「悲劇」というのは、ナジュ君の襲撃のことに違いな、
「突然、原因不明の疫病が村を襲ったんです」
「…え?」
あまりに予想外で、私は思わず素の声が出てしまった。
「え?どういうって…。…お嫌ですか?そのような言い方をするのは…」
嫌、って言うか…。
「僕も含めて、この学院に居る者は皆、聖賢者様のお力のお陰で、幸福な今があるんです。聖賢者様には、本当に…心から感謝しています」
それはどうもありがとう。
これほど心に響かない感謝の言葉もないね。
私は何もした覚えがないから。
「ねぇ、天音君。一つ聞いても良いかな」
「はい、何でしょう?」
「私、君に何してあげたの?」
「えっ?」
そこまで畏まって、私のお陰私のお陰って言うからには。
きっととんでもなく、素晴らしいことをしてあげたんだろうね?
何したんだろう…。死にかけてたところを救ったとか?
「お、お忘れになったんですか?…いえ、聖賢者様はご多忙ですし、大勢の人々を助けていますから、僕との出会いなどいちいち覚えていらっしゃらないかもしれませんけど…」
「良いから、話してみて。私、君に何したの?」
「それは…忘れもしません。僕はあのとき、医師魔導師として様々な村を旅していて…」
そこは現実と変わらないんだね。
昔の天音君も私と出会う前は、得意の回復魔法を活かして、多くの人々を治療しながら旅をしていたと聞いている。
「しかしある日、僕が滞在していた村で…悲劇が起きました」
…知ってる。
天音君がお世話になっていた村に、ナジュ君が…当時『殺戮の堕天使』と呼ばれていた彼がやって来て。
ナジュ君は天音君に殺してもらおうと、天音君を怒らせる為に村人を虐殺した。
天音君はそのことを許せず、ナジュ君に復讐する為にルーデュニア聖王国に…そして、イーニシュフェルト魔導学院に辿り着いた。
これが、私の知っている…天音君がイーニシュフェルト魔導学院にやって来た経緯だ。
…とても悲しい話だと思う。
この話だけ聞くと、ナジュ君が悪人のように思えるけど。
今なら分かる。
ナジュ君とて、好き好んでそのような凶行に及んだのではない。
彼は自分の事情のせいで、酷く追い詰められていた。
勿論、いかなる理由があっても、殺人は許されないだろう。
だけど、ナジュ君にはナジュ君の苦しみがあった。
それを理解したからこそ、天音君はナジュ君を許したのだ。
私は、そのような経緯があったことを知っている。
天音君が言う「悲劇」というのは、ナジュ君の襲撃のことに違いな、
「突然、原因不明の疫病が村を襲ったんです」
「…え?」
あまりに予想外で、私は思わず素の声が出てしまった。