神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
え…。

…疫病? 

ナジュ君…『殺戮の堕天使』の襲撃じゃなくて?

「僕の回復魔法では治しようがなくて、村人が次々、大勢死んでいって…」

と、天音君は暗い顔で語った。

私の知らない、天音君の過去の話を。

「ついに、僕自身もその病気にかかって…生死の境を彷徨っていたときに、あなた様が来てくださったんです」

それって、いつのこと?

私、天音君の村を訪ねた記憶なんて全くないんだけど。

「聖賢者様は、その優れた魔法を使って、原因不明の疫病を治してくださったんです」

「…」

「お陰で大勢の村人が救われました。僕もその一人です。聖賢者様が来てくださらなかったら、今頃村は全滅し、僕も生きてはいなかったでしょう…。だから聖賢者様は、村と僕にとって救世主に等しい存在なんです」

「…救世主なんて…」

勘弁して欲しい。

この私が救世主だなんて、おこがましいにも程がある。

それなのに…。

「そのような言い方はお気に召しませんか?でも、僕にとって聖賢者様は救世主なんです。せめて僕だけでも、そう思わせてください」

そんな風に頼まれては、嫌とは言えなかった。

…救世主…疫病から村を救った救世主ね…。

残念ながら、私にはそんなことをした記憶はないんだけど…。

「それに、聖賢者様は僕にとって救世主なだけじゃなくて…イレースさんやナジュさんにとっても、そうだと思いますよ」

…とのこと。

天音君が何のことを話してるのか分からないけど…。

「私、イレースちゃんに何かした…?」

「え?イレースさん、言ってましたよ。以前勤めていた魔導学院で、経営者が酷い人で、生徒も教職員もパワハラにも似た扱いを受けてて…」

それって、ラミッドフルス魔導学院のこと?

ラミッドフルス魔導学院で、パワハラ被害?

そんなの聞いたことがない。

「聖賢者様が、その悪い経営者を摘発し、生徒達や教職員を助け…。精神的にも肉体的にも弱っていたイレースさんを、イーニシュフェルト魔導学院にスカウトしたんでしょう?」

「…」

「イレースさんはそのときのこと、凄く感謝しているそうですよ。前、そう教えてくれました」

…それは…どのイレースちゃんのことかな。

少なくとも、私の知ってる世界のイレースちゃんではないね。
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