神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
イレースに睨まれた途端、ルディシアはさながら。

蛇に睨まれた蛙のように、身体を硬直させた。
 
「あなたはルーデュニア聖王国に亡命する。有事であれば私達に手を貸す。それ以外のときは好きにしていれば宜しい。良いですね」

強引。

「え、で、でも…」

「…良いですね?」

「…はい、良いです」

抗弁しようとしたルディシアだったが。

イレースに再びジロッと睨まれて、敢え無く降参。

全てが丸く収まってしまった。

…イレース、お前を連れてきて本当に良かった。

ルディシアを説得する手間が省けたよ。

…まぁ、ルディシアは内心ビクビクしてるだろうが。

「嘘は…ついてないようですね」

ずっと尋問の様子を観察していたナジュも、そう言った。

つまりルディシアは、本気でルーデュニア聖王国に亡命する気があるんだな。

嘘をついて、俺達を罠に嵌めようという気もないらしい。

それは何より。

「じゃあ、改めて…。これから宜しくね、ルディシア君」

「…こんなネクロマンサーなんかと仲良くしようなんて、あんたは変わってるよ」

微笑むシルナに向かって、ルディシアは呆れたようにそう言った。

全くだよ。

でも、これがシルナ・エインリーという人間だからな。

「ネクロマンサーどころか、自分を暗殺しようとした人間とも、ジャマ王国の元暗殺者でも、不死身の化け物とも仲良くなろうとする好き者ですからね」

「そうですね。今更ネクロマンサーと仲良くしたくらいでは驚きません」

ナジュとイレースが言った。

そう思うと、シルナのコミュ力って凄いよな。

誰とでも仲良くしようとしてる。

外部の人間とは一切の交流を断っていた、イーニシュフェルトの里の出身とは思えないくらいだ。

「残念だったな、ルディシア。…ここはそういう国で、シルナはそういう人間なんだ。さっさと諦めることだ」

「ふーん…?…良いよ、暇潰しにはなりそうだ」

素直に喜べよ、全く。






…こうして。

ネクロマンサー、ルディシア・ウルリーケは、晴れて俺達の味方になったのだった。





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