神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「…天音君」

私は、頭に浮かんだ疑問を天音君に尋ねることにした。

「はい、何でしょうか?」

「令月君とすぐり君、何処に居るかな?知ってる?」

「え…?あぁ、あのジャマ王国の暗殺者のことですか?」

元、ね。

今は違うでしょ。この学院に居るのなら。

「授業に出ているんじゃないですか?今は授業中ですから…」

あ…そうか。

まだ授業の時間だもんね。

「やはり、あの二人が心配ですか?」

「それは…心配だよ、当然」

皆して、学院に来た経緯が私の記憶とは違ってるんだもん。

多分、令月君とすぐり君も、私の知るものとは違う経緯で…。

「そうですよね、僕も心配です…。…今のところは、大人しく授業に出て、真っ当にイーニシュフェルト魔導学院の生徒をやっているようですけど…」

…え?

「いつ化けの皮が剥がれるか、分かったものじゃありませんよね。聖賢者様の広い懐に救われたお陰で、自分達の命があるんだということ…本人達も自覚していると良いんですが」

「ちょ…ちょっと待って。何?その言い方…」

それじゃあまるで…そんな言い方したら。

令月君とすぐり君が、本性を隠した野蛮人であるかのように。

「あ、失礼しました。聖賢者様にこのような…」

違うよ。私に失礼なんじゃなくて。

そんな言い方をしたら、令月君とすぐり君が可哀想だから。

彼らだって、望んで暗殺者になった訳じゃないのに。

「聖賢者様の寛容な御心で、あの二人を学院に置いていることは分かっていますが…。元はと言えば、あの二人は聖賢者様のお命を狙った不埒者ですから」
 
と、天音君は顔をしかめてそう言った。

…成程、そういうことなんだ。

令月君とすぐり君は、この世界では…「偉大なる聖賢者」の命を狙った不埒者。

だから、天音君はさっきから、そんな冷たい言い方をして…。

「ろくに躾もされていない異国人が、聖賢者様の御恩を忘れ、いつまた牙を剥くんじゃないかと…教員一同、皆心配しているんです」

「…そんな心配は必要ないと思うけど」

彼らがまた変な気を起こして、私を襲うんじゃないか、なんて。

そんな心配、私は一度もしたことがないよ。

「さすが、聖賢者様は御心が広くていらっしゃる。あのような野蛮人にさえ情けをかけられるなんて…」

と、天音君は神々しいものでも見るかのような目で、私を見つめた。

…冗談じゃない。やめてくれ。

「大丈夫です。聖賢者様に手出しはさせません。僕らの命に代えても、聖賢者様をお守りしますから」

君達の命に代える必要もない。

…けど、これ以上天音君の口から、令月君達を貶めるような発言を聞きたくはなかった。

本物の天音君に失礼だよ。

聞いていられなくて、私は天音君を残してその場を辞した。
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