神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
そして、授業が終わって放課後になってすぐ。

令月君とすぐり君を探しに、教室に向かった。

私が訪ねていくと、生徒達は皆ひれ伏さんばかりに私に敬意を表した。

本当に、酷く居心地が悪い。

彼らと私の心の間に、大きな谷のような深さの溝を感じる。

そして、それは令月君とすぐり君も例外ではなかった。

「まさか、聖賢者様が自らお越しになるなんて…」

「呼んでくだされば、すぐにでもこちらから足を運んだのに…」

二人共そう言って、私の前で頭を垂れた。

…やめて欲しい。

君達にそんな態度を取られると、私まで言葉が出なくなってくるよ。

いつもみたいに、不遜な態度で接してくれたら良いのに。

「僕も『八千歳』も、聖賢者様のお陰で今日も実りのある勉学に励むことが出来ました。本当にありがとうございます」

令月君はそう言って、私の足に頭をつけんばかりに深々と頭を下げた。

すぐり君も同様に、私に深々と頭を下げる。

気持ち悪っ、て思わず言いそうになった。

これでも、この世界の令月君とすぐり君は真面目に言ってるんだよ。

真面目なのが正しいとは限らないけどね。

「…それで、今日は何か、僕達に御用ですか…?」

「…君達は、ジャマ王国で…『アメノミコト』で暗殺者をしていたと聞いてるけど」

「…!」

私がそう切り出すと、令月君は上げかけていた頭をまた下げた。

「…あのときのことは、本当に申し訳ありません」

あ、いや。

責めようと思った訳じゃなくて。

「愚かにも、僕達は命令されて、聖賢者様のお命を狙って…。それでも聖賢者様の慈悲深さに救われて、こうして命があります」

「この御恩は決して忘れません。俺達のような薄汚い暗殺者のことは、信用出来ないかもしれませんが…。聖賢者様のお優しさに報いる為、心を入れ替えるつもりです」

だから、責めようとしたんじゃないって。

君達を薄汚い暗殺者だと思ったこともない。

「違うよ。そういう意味で言ったんじゃ…」

「…ありがとうございます。聖賢者様は本当にお優しい方です」

だから、違うって。
 
どうやっても私を崇めようとするの、本当やめて。

「人を殺すしか能のなかった僕達に、更生するチャンスを与えてくださった…聖賢者には、感謝してもしきれません」

「少しでも聖賢者様のお力になれるよう、精進致します」

そう言って、二人共また頭を下げる。

…そんなに頭ばっかり下げてたら、頭に血が上らない?大丈夫?

「…」

駄目だ。話にならない。

この二人がイーニシュフェルト魔導学院に来た経緯、詳しく聞こうと思ってたんだけど…。

今のやり取りで大体分かったから、もう良いや。

これ以上話しても、私を崇める言葉以外が出てくるとは思えない。
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