神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
あまりの居心地の悪さに耐えきれず、令月君とすぐり君を置いてその場を離れ。    

学院長室に戻った私は、一人で頭を抱えていた。

「…はー…」

楽しい放課後の時間。

…いつもなら、生徒を招いて一緒にお菓子食べてる時間なんだけどなぁ…。

今日ばかりは、今日ばかりは…そんな気になれないよ。

元の世界のイレースちゃんが見たら、「あなたにも、お菓子を食べる気にならない日があるんですね」とか言って、嫌味の一つ二つでも飛んでくるんだろうに。

でも今のイレースちゃんだったら、嫌味どころか。

私の体調を心配して、「大丈夫ですか?聖賢者様」とか言うんだろうなぁ。

そう言われるのも嫌だから、敢えて一人でいる。

これ以上、豹変した皆の姿は見たくない。

それに…さっきからずっと、この世界に来てからずっと…気になっていることがある。

確かめたいんだけど、果たしてこの状況でどうしたものか…。

…と、思っていたそのとき。

「窓から失礼します」

「…あ」

開けっ放しにしていた窓から、いろりちゃんが…猫形態のマシュリ君が、しゅたっと入ってきた。

いらっしゃい。

「マシュリ君…」

「窓が開いていたので、外から入りました」

そう言って、マシュリ君は猫の姿から、人間の姿に『変化』した。

君も、この世界に居たんだね。

おまけに、私に向かって敬語だね。

…ということは…。

「…マシュリ君。君も私のこと…聖賢者だと思ってるのかな?」

「…?聖賢者様は、今も昔も変わらず聖賢者様では?」

…だよねー。

君だけは、私をただのシルナとして扱ってくれないかと期待したけど。

やっぱり駄目だったか…。

「君もこの世界に居るってことは、私の記憶にあるマシュリ君じゃないんだろうね…」

「…??何の話ですか?」

「…こっちの話だよ…」

別に君が悪いんじゃないから、責めるに責められない。

誰を責めたら良いのやら…ハクロとコクロだろうか?

「何だか元気がないように見えますけど…。…放課後なのに、今日は全然お菓子の匂いもしないから、何かあったのかと思って…」

それで、気になって窓から入ってきたんだね?

その心遣いは嬉しいけど…。

「やっぱり、あの人がいないから…元気がないんですか?」

と、マシュリ君が尋ねた。

図星をつかれて、思わず私はドキッとしてしまった。
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