神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「…うん、そうかも」

認めるよ。素直に。

例えどんなに間違った世界でも、あの子が居てくれるなら何処でも良い。

一番辛いのは、聖賢者呼ばわりされることでも、救世主扱いされることでもない。
 
他でもない、あの子が私の傍に居ないこと。

これが一番辛い。

一人じゃ駄目なんだよ、私は…。

「…会いたいね、早く…」

元の世界に帰れば会えるんだろうけど。

その前に、この世界にあの子が居て欲しい。

私を、一人にしないで欲しい…。

あの子が傍に居ないってだけで、私は心が酷く弱っていくのを感じていた。

このままじゃ、元の世界に戻る前に私の心が潰れそうだよ…。

…だけど、マシュリ君があの子のこと、こうして口にするからには。

ちゃんと居るんだね。この世界にもあの子が。

私の大切な…一番大切な…。

「本当に…大切なんですね、あの人のこと」

「…勿論だよ。あの子が居るから、私は生きてこられたんだから」 

そうじゃなかったら、私はとっくに心を失って…。

…でも、正しい道を選んでいたんだろうね。

今となってはどうでも良いけど。

…すると。

「大袈裟ですね。そろそろ帰ってきますよ」

と、マシュリ君は微笑んだ。

…え?帰ってくるの?

「さっきから、彼女の匂いがするし…足音も聞こえますよ」

え?彼女?

「ま、マシュリ君…?彼女って誰…」

「あ、ほら帰ってきた」
 
「!?」
 
ガチャッ、と学院長の扉が開いて。

中に入ってきたのは、私がずっと姿を探し求めていた人物…。

…ではなく。

「ただいま戻りました。遅くなってごめんなさい、シルナ様」

「えっ、ば…ヴァルシーナ…ちゃん…!?」

現れたヴァルシーナちゃんの姿を見て、私は思わず仰天してしまった。

…そ、そう来るとは思わなかったな…。
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