神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
何で…あの方の話が出てくるんだ。今。
ヴァルシーナちゃんのお祖父さん…つまり、イーニシュフェルトの里の族長。
私に…神殺しの魔法を行うよう命じ、邪神を討ち滅ぼすことを命じて、死んでしまった…。
「別の人間の器で…しかも死体ですから、上手く蘇生出来るか心配でしたけど…さすがはシルナ様ですね。今ではもう、普通の人間と大差ありませんよ」
嬉しそうに微笑みながら喋るヴァルシーナちゃんが、何を言っているのか私には分からなかった。
ただ、元の世界では決して有り得なかったであろうことを言っているのは、よく分かった。
蘇生…蘇生って…。
「お祖父様は、シルナ様にも会いたがっていました。今度里に行って、お祖父様に会いに行ってあげてください。大層感心していましたよ、シルナ様のこと。…あのお祖父様がですよ?」
…人、褒めるタイプじゃないもんね。族長は。
徹頭徹尾、叩いて叱って伸ばすタイプだった。
だから私、あの人苦手だった。
「お祖父様は、蘇生させてもらったことも感謝しているようでした。そして何より、シルナ様が立派に役目を果たしたことを…」
「…役目…?」
「はい。邪神を討ち滅ぼし、世界に平和をもたらすという役目を」
…まさか。
頭から、血が引いていくのが分かった。
私が、この私が、己の役目を果たした?
邪神を討ち滅ぼして…?
じゃあ、それって。つまり、私は…。
「羽久…いや、二十音を殺したっていうの…?私が…?」
「え?はつねさん…ですか?」
「邪神を殺す方法だよ…!私は、神の器になり得る子供に…二十音の身体に邪神を宿して、二十音ごと殺すことで邪神を…」
「は、はい…。そのようにして邪神を討ち滅ぼしたと、シルナ様から聞いていますけど…」
私は愕然として、ヴァルシーナちゃんを見つめた。
当のヴァルシーナちゃんは、戸惑った様子で首を傾げていた。
何を今更…?とでも思っているのだろうが。
…まさか、この私が。
二十音をこの手で…殺めたと言うのか?「あの」時…。
元の世界の私は、どうしてもあの子を殺せなかった。
邪神を宿した二十音を、それでも私を信じて笑いかけてくれたあの子を。
私の孤独を…初めて満たしてくれたあの子を。
殺せなくて、どうしても殺せなくて、私は道を踏み外した。
邪神を滅ぼすのではなく、守ることを選んだ。
邪神を宿した二十音と共に、全ての正しさから背を向けて生きていくことを。
…それが、元の世界の私の過ち。
ヴァルシーナちゃんが私を憎むのは、その過ちのせいだ。
だけどこの世界でヴァルシーナちゃんは、私を憎んではいない。
私の傍らで、私の右腕のように侍っている。
この世界に二十音がいない。
それは、私がこの手であの子を殺してしまったからだと言うのか?
ヴァルシーナちゃんのお祖父さん…つまり、イーニシュフェルトの里の族長。
私に…神殺しの魔法を行うよう命じ、邪神を討ち滅ぼすことを命じて、死んでしまった…。
「別の人間の器で…しかも死体ですから、上手く蘇生出来るか心配でしたけど…さすがはシルナ様ですね。今ではもう、普通の人間と大差ありませんよ」
嬉しそうに微笑みながら喋るヴァルシーナちゃんが、何を言っているのか私には分からなかった。
ただ、元の世界では決して有り得なかったであろうことを言っているのは、よく分かった。
蘇生…蘇生って…。
「お祖父様は、シルナ様にも会いたがっていました。今度里に行って、お祖父様に会いに行ってあげてください。大層感心していましたよ、シルナ様のこと。…あのお祖父様がですよ?」
…人、褒めるタイプじゃないもんね。族長は。
徹頭徹尾、叩いて叱って伸ばすタイプだった。
だから私、あの人苦手だった。
「お祖父様は、蘇生させてもらったことも感謝しているようでした。そして何より、シルナ様が立派に役目を果たしたことを…」
「…役目…?」
「はい。邪神を討ち滅ぼし、世界に平和をもたらすという役目を」
…まさか。
頭から、血が引いていくのが分かった。
私が、この私が、己の役目を果たした?
邪神を討ち滅ぼして…?
じゃあ、それって。つまり、私は…。
「羽久…いや、二十音を殺したっていうの…?私が…?」
「え?はつねさん…ですか?」
「邪神を殺す方法だよ…!私は、神の器になり得る子供に…二十音の身体に邪神を宿して、二十音ごと殺すことで邪神を…」
「は、はい…。そのようにして邪神を討ち滅ぼしたと、シルナ様から聞いていますけど…」
私は愕然として、ヴァルシーナちゃんを見つめた。
当のヴァルシーナちゃんは、戸惑った様子で首を傾げていた。
何を今更…?とでも思っているのだろうが。
…まさか、この私が。
二十音をこの手で…殺めたと言うのか?「あの」時…。
元の世界の私は、どうしてもあの子を殺せなかった。
邪神を宿した二十音を、それでも私を信じて笑いかけてくれたあの子を。
私の孤独を…初めて満たしてくれたあの子を。
殺せなくて、どうしても殺せなくて、私は道を踏み外した。
邪神を滅ぼすのではなく、守ることを選んだ。
邪神を宿した二十音と共に、全ての正しさから背を向けて生きていくことを。
…それが、元の世界の私の過ち。
ヴァルシーナちゃんが私を憎むのは、その過ちのせいだ。
だけどこの世界でヴァルシーナちゃんは、私を憎んではいない。
私の傍らで、私の右腕のように侍っている。
この世界に二十音がいない。
それは、私がこの手であの子を殺してしまったからだと言うのか?