神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「だが、この新たなイーニシュフェルトの里は、お前が再建させたものだ。そして我は、一度は死んだ身。墓の下から蘇ったに過ぎん」

…自分がゾンビだっていう自覚はあるんだ。一応。

おまけに、私に蘇らせてもらったという負い目と言うか…恩くらいは感じているらしい。

殊勝なことだ。

「里のこれからの方針は、お前やヴァルシーナや…若者が決めるべきだ。この老人の役目は、お前達若者が困ったときに横から口を挟むことくらいよ」

「…」

「何より、立派に役目を果たしたお前だ。この里の未来を託すに相応しい。思うように、存分に腕を振るうが良い。きっとお前なら、世界を救ったように、このイーニシュフェルトの里をも、大きく発展させることが出来よう」

…族長からの、全幅の信頼。

初めて見る、族長の微笑み。

こんなものが…私の欲しかったものなのか。

二十音をこの手で殺してまで、手に入れたかったものなのか?

これで、二十音を失った私の欠落を埋めようと?

…そんな馬鹿な話があるものか。

「…分かりました。期待に添えるよう精進致します」

私は機械的に口を動かして、思ってもいないことを族長に伝えた。

…そして。

「ですが…一つ、お尋ねしたいことがあります」

「何だ?」

「もしも…もしも、ですよ。私が役目を果たせず、邪神を討ち滅ぼすことも、あなたを蘇らせることもせず、あまつさえ…邪神を守る為に正義から背を向けていたとしたら」

元の世界の私がしたことを、今のあなたが知ったら。

その時、果たして。

「あなたは…私に何と言っていたでしょう?」

「何を世迷い言を。お前としたことが…。さては、自信をなくしたか?」

「…どうかお答えください」

「そんなものは決まっている」

と、ヴァストラーナ族長は鼻を鳴らし、吐き捨てるようにこう言った。

「己の役目を果たせぬ人間に、生きる価値などない」




…予想して通りの言葉ではあった。

図らずもそれは、アーリヤット皇王の口癖と同じだった。
 
その言葉が、私の心に突き刺さった。
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