神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
族長の家を後にしてから。

私は珠蓮君に頼んで、再建されたイーニシュフェルトの里を案内してもらった。

細部に細かな違いがあれど、里の景色は、私の記憶にあるものと同じだった。

やっぱり、わざと里の風景を再現しているのだろう。

懐かしさは、やっぱりなくて。

それよりも、先程族長から言われた言葉が、頭の中をぐるぐると回っていた。

生きている価値などない…か。

そんなの分かっている。自分が一番良く分かっている。

だけど、私は他に…どうすれば良かったというのだ?

己の孤独や苦しみを無視して、己の役目を忠実に果たすべきだったと?

二十音を邪神ごと、この手で殺せば良かったと?

私の孤独を埋めてくれた、唯一の存在を?

そして、その結果手に入れたものは何だ?

二十音は既に、この世界には存在していない。私が殺したから。

その代わり、私は世界を救った英雄として誰からも褒め称えられ。

聖賢者様と呼ばれ、救世主として扱われ。

ヴァルシーナちゃんに慕われ、ヴァストラーナ族長の誇りになった。

これが、私の求めていたもの?

これが、二十音の代わりに手に入れたもの?

なんと空虚で薄っぺらで、虚しいものだろう。

名声も名誉も要らない。私の隣にはただ、あの子が居れば良い。

他には何も要らない…。

この世界に二十音がいないのに、それこそ私が生きている理由なんて…。

そんなことをぼんやりと考えながら、私は珠蓮君に付き添われて歩いていた。

「あの…聖賢者様。大丈夫ですか?」

珠蓮君が、心配そうな顔で尋ねた。

「…え?」

「いえ、その…。先程からずっと、暗い顔をされているので…。族長様と何かありましたか?」

「…」

私があまりに浮かない顔をしているから、気になったらしい。

…だろうね。

酷い顔してると思うよ。今は…。

「お疲れですか?良かったら、今日は王都には帰らず、里にお泊りになって…。明日になってからお戻りになっては?」

「別に…何でもないよ。ちょっと気分が、」

「…?聖賢者様、どうされました?」




…その人物を見て、私は思わず足を止めてしまった。

自分の見たものが信じられなかった。

私の目の前を、ぬいぐるみを抱いた小さな子供が駆けていった。

その顔は、私の記憶にあるものと同じ。

「…二十音…!?」

あの日、座敷牢に閉じ込められていた二十音と全く同じ顔の子供が、私の目の前を走っていったのだ。
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