神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
第28章
――――――…ハクロとコクロが見せる、幻の世界にやって来て。

…シルナの存在しない、偽りの世界にやって来て、およそ一週間が経過した。

とはいえ、それはこちらの世界の時間であり。

元の世界で、どれくらい時間が経過しているのかは分からない。

もしかしたら、1分とか、一時間くらいしか経ってないのかもしれないし。

あるいは…一ヶ月、一年くらい経っているのかもしれない。

もしそれくらい経ってるんだとしたら、もう決闘終わってんな。

果たしてどうなってるんだろう。

元の世界のことも気になるが、俺はこの一週間で、この世界のことをより詳しく調べた。

…と言っても、大したことは分かっていない。

ただ、この世界にはシルナが存在していないから。

シルナの存在しないことによって、果たしてどんな風に、この国の歴史が変わっているのかを確認しただけだ。

もっと詳しく言うと…大昔に起きたという、邪神と聖神の戦争、とか。

イーニシュフェルトの里とか。神殺しの魔法とか。

大昔に起きたという聖戦、俺も口伝えでしか聞いてないけど。

神殺しの魔法を使ってあの聖戦を終わらせたのは、他でもないシルナの功績である。

この世界にシルナが存在していないのだったら、聖戦は終わらず、邪神が統べる世界になってしまう。

…はずだった。
 
それなのに、今この世界を見てみると良い。

邪神も聖神も、聖戦の話も…一度も耳にしていない。

これはどういうことなのか。

調べてみて分かった。

結論から言うと…この世界にも、一応、シルナは存在しているらしい。

ただ、俺の前に姿を現すことはない。

この世界のシルナは、俺と出会うことはない。

何だかややこしい話ばかりして、大変申し訳無いが。

この世界ではどうも、元の世界であったような、聖神と邪神の戦争は起きていないらしい。

聖戦に関する歴史の記述が、全く残されていないのである。

…まぁ、敢えて記録から抹消されているだけで、もしかしたらあったのかもしれないが。

だけど多分、聖戦が起きなかったというのは事実なのだろう。

この世界に来たときから、ずっと気になっていた。

普段、俺の中には常に…この身体の中に封印されている邪神の気配を感じていた。

いつもは、シルナが俺の身体の奥深くに邪神を封印してくれているから、気にすることはなかったが。

こうしてなくなってみると、よく分かる。

自分の中身が空っぽになったような…。

…なんつーか、内臓一つ二つ失ったような気がする。

いや、比喩だけどさ。

この世界では、俺の中に邪神がいない。

そのせいなのだろうか?…「前の」俺が出てくる気配も、全く無いのだ。

聖戦が起きなかった。俺の肉体に邪神が宿ることもなかった。

聖戦が起きなければ、神殺しの魔法が使われなかったら、俺がシルナと出会う機会はない。

俺の横にシルナがいないのは、多分それが原因なのだ。

その代わり…と言ってはなんだが。

聖戦の記述は見つけられなかったが、イーニシュフェルトの里に関する記述を見つけることは出来た。
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