神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「挙げ句、イーニシュフェルトの里なんて都市伝説を本気にして、授業サボってまで図書館で調べ物して…」

「…」

「何か情報は見つかりました?」

「…いいや」

強いて言うなら、知りたくなかったことを知ってしまった程度だな。

イーニシュフェルトの里は、確かに存在していた。

多分そこに…シルナは居るのだろう。

…会いには行けないけど。

俺を知らないシルナになんて、会ったって仕方ない…。

「…またシルナ、シルナですか…。あなた、余程そのシルナって人が大切なんですね」

俺の心を読んだナジュが、そう言った。

…あぁ。

「大切だよ。…自分の命より、ずっと」

シルナにとって、「前の」俺が一番であるように。

俺にとってもまた、シルナは一番の存在だ。

自分の命より、ずっと大切な人間だ。

「あなたにとって、そのシルナさんって人は…僕にとってのリリスみたいな存在なんですね」

「恋人ではないけどな…。まぁ、大切の度合いで言えば、お前とリリスみたいなもんだよ」

「ふーん…」

と言って、ナジュはじっと俺を見つめた。

俺って言うか…俺の心の中を見ているんだろうけど。

いつもなら文句言うところだが、もう好きにしてくれ。

「…シュニィさん達は、あなたが誰かに騙されたり洗脳されて、おかしくなったんじゃないかって言ってます」

「…」

…そう見えるんだろうな。シュニィ達にとっては。

突然中二病発言を繰り返し、シルナ・エインリーなる人物のことを、しつこいほどに繰り返し。

シュニィ達にはさっぱり分からないのに、俺に「お前達も知っているはずだ。思い出せ」と迫られているのだから。

俺がおかしくなってしまったんじゃないかと、疑うのは当然だ。

俺にしてみれば、おかしいのはシルナを忘れているお前達の方なんだけどな。

「でも、僕はあなたがおかしいとは思ってませんよ…。心の中を見れば分かりますから」

「ナジュ…」

「おかしいと思うはずなんですけどね。あなたの心が、あまりにも真っ直ぐで純粋で…誰かに騙されたり、洗脳されているようには思えない」

「信じてくれるのか?俺が…本当のことを言ってるって」

この世界が、ハクロとコクロによって作り出された幻の世界だってこと。

こんな突拍子もない話を、本当に信じてくれるのか。

「常識ではとても信じられませんし、信じたくありませんけど…。あなたの心の有り様を見たら、信じざるを得ないんですよね」

ナジュは腕組みをして、難しい顔でそう言った。

「この世界があなたの言う通り、幻なんだとしたら…僕達の見ている現実は、全部偽物ってことになりますよね」

「あぁ…。偽物だよ」

「でも…前にも言いましたけど、僕は偽物でも良いと思ってます」

「…」

…そうだな。
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