神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「…シルナ様」

「…何かな?」

「何だか最近…ずっと思い悩んでいるようですが」

そうだね。

私がこんな腑抜けになってしまったせいで、色んな人に迷惑を掛けている。その自覚はある。
 
特にヴァルシーナちゃんは、殊更私に気を遣ってくれている。

「その…何か、あったんですか?…お祖父様に何か言われたんですか?」 

あー、いや…。

ヴァストラーナ族長に…言われたことも、確かに心の中に残ってるけども。

そうじゃなくて。

「別に…何も言われてないよ」

「それじゃあ…どうしたんですか?ずっと元気がなくて…。甘いものも全然食べていないようですし」

甘いもの食べてるかどうかが、私の元気度合いの判断基準なの?

まぁ、間違ってはいない。

「シルナ様が浮かない顔をしていると、私も心配です。…もし何か悩んでいることがあるなら、相談してもらえませんか」

「…」

「私では、大して力にはなれないかもしれませんけど…。出来ることがあるなら、何でもします。シルナ様の為に、何でも」

「…」

「…相談、してもらえませんか?」

そう訴えかけるヴァルシーナちゃんの目は、何処までも真っ直ぐで、真剣で。

彼女が本気で、私のことを心配しているのだと分かった。

あぁ、そんな顔をしないで欲しい。

私は君に、そんな優しい言葉をかけてもらえるような人間じゃないんだよ。

まるで、羽久みたいなことを言うんだね。

この世界では、君が羽久の代わりなんだろうね…。

「…ねぇ、ヴァルシーナちゃん」

「はい。何ですか?」

「今から言うことは…もしも、もしもの話だよ。もしも…そんな世界があるとしたら、と仮定して」
 
「は、はい…?」

首を傾げるヴァルシーナちゃんに、私は話して聞かせた。

元の世界、本当の世界のことを。

「私がもし…邪神を殺さず、むしろ守っていたら」

「えっ…?」

「役目も使命も果たすことなく、ただ自分の身勝手の為に邪神を守って生きていたら?もし私がそんな風に生きていたら、君はどうすると思う?」

「そ、それは…有り得ないことなのでは?」

突然の質問に、ヴァルシーナちゃんは困惑していた。

有り得ないことじゃないんだよ。

元の世界では、紛れもなくそうだったんだから。

「仮定の話だとして、だよ」

「そ、そうでしたね…。うーん…とても想像出来ませんけど…。…シルナ様が万が一お役目を果たされないのなら、私が代わりに邪神を滅ぼし、里を再建したと思います」

…だよね。

実際元の世界では、君はそうしようと努力しているから。

その努力の全てを…私が台無しにしてるだけで。
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