神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
第4章
―――――――…ネクロマンサー、ルディシア・ウルリーケが正式にルーデュニア聖王国に亡命することが決まり。

ようやく肩の荷が下りた、その矢先。

ある日の放課後。





「よーしよし、ほらほらいろりちゃ~ん、おやつだよ〜」

学院長室では、シルナが気持ち悪い猫撫で声を出して、いろりの背中を撫で回していた。

「可愛いね〜、おやつあげるよほら。お食べ〜」

「…」

俺はそんな様子を見て、思った。

「これが猫じゃなくて人間だったら、完全に犯罪ですね」

俺の代わりに、ナジュが代弁してくれた。

「全くだ」

犯罪臭がぷんぷんする。

見ろよ。何処からどう見ても、女の子に言い寄る気持ち悪いおっさんだ。

通報してぇ。

「羽久が私に失礼なこと考えてる気がするけど…いろりちゃんが可愛いから良いや〜」

「そうかよ」

お前がそんなに猫好きだとは思わなかったよ。

まぁ、いろりは特別かもな。

賢い猫だし、全然人見知りしなくて、むしろ人懐っこい性格だし。

猫に興味がなくても、いろりは特別可愛らしく見える。

それはシルナにとってだけではなく、生徒達にとってもそうらしく。

生徒達の中でも、最近はいろりの話題で持ちきり。

学内にプチブームを起こしているいろりである。

更に、猫にハマっている生徒の中には。

「来たよー」

「ねこまんま持ってきたよ」

すぐりと令月が、お茶碗を片手にやって来た。

お茶碗の中には、鰹節をかけた白米が入っていた。

出た。猫の定番飯。

令月とすぐりの元暗殺者組も、何だかんだ猫を可愛がっている生徒の一人である。

まぁ、この二人は最初にいろりを保護して、隠して飼っていたメンバーだからな。

特別、いろりに対して思うところがあるのだろう。

そして。

「ねこまんまか…。気持ちは分かるけど、人間の食べ物はあんまり食べさせちゃ駄目だよ。猫の身体には良くないから」

と、天音が言った。

天音もまた、いろりが可愛いらしく。

こうして放課後に学院長室にやって来ては、マッサージとかブラッシングとか、いろりを構ってやっている。

何だろう。天音がいろりを可愛がっているところを見ると、ほっこりするんだよな。

シルナが同じことをしてると犯罪に見えるのにな。不思議だよな。

これを「日頃の行い」と言うのかもしれない。

が、それを良く思わない者もいる。

「全く…。イーニシュフェルト魔導学院の学院長ともあろう者が、猫にうつつを抜かすとは…」

書類を届けに来たイレースが、気色悪い声で猫を甘やかすシルナを見て、吐き捨てるようにそう言った。

いろりの魅力を前にしても、イレースは全く動じない。

果たして、イレースには「デレる」ということがあるのだろうか。

だが、「今すぐその猫を追い出しなさい」と言わない辺り。

これでも一応、イレースなりに譲歩していると言えるのかもしれない。
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