神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「ですが…」

と、ヴァルシーナちゃんは続けた。

「私には、とても無理だと思います…。残念ですが、私には力不足です。シルナ様がやり遂げたことを、この私が一人で成し遂げるなんて…。私には出来ないと思います」

…成程、よく分かってるね。

こちらの世界のヴァルシーナちゃんの方が、余程自分の身の程というものを理解している。

まぁ…例え無理でも無謀でも、元の世界ではヴァルシーナちゃん一人きりなんだから。

無理だろうが、どうしてもやらなければならないから…必死に努力しているんだろうけど。

「役目を果たすことが出来たのは、シルナ様だからです。誰もあなたの代わりにはなれません。私も…お祖父様にも」

「ヴァストラーナ族長は…私を許さないだろうね」

「そうでしょうね…。でも、それはもしもの話でしょう?」

もしものような…。

…本当の話だね。

「シルナ様が役目を放棄するなんて、絶対有り得ませんから。シルナ様はご自分の役目を忘れたりしません。そんなことしたら、きっと一生自分を許せないでしょう?」

…その通りだよ。

よく分かってるね。さすが、羽久の代わりに私の隣にいるだけのことはある。

「だから大丈夫です。私、全く心配してません。シルナ様なら大丈夫。そう信じているから、お祖父様だってシルナ様に大切な役目を頼んだんです」

「…」

「そして、シルナ様は皆の期待通りにやり遂げたではありませんか。とても立派なことです。誰もが、あなたを尊敬していますよ」

そう言って、ヴァルシーナちゃんは微笑んだ。

相変わらず、元の世界では決して見られない柔らかい表情と声音。

尊敬…か。

二十音を手に掛けて、得られたのは…尊敬だけ。

名声、名誉…そんな形のないものだけが、私のもとに残った。

その、なんと…虚しくて空虚なことだろう。

こんなものの為に…私は、立派に役目を果たしたというのか?
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