神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
だけど、昔の私は。
二十音と出会う前の私は、まさにこんなものの為に生きていたのだ。
ヴァストラーナ族長以下、イーニシュフェルトの里の死者の亡霊に取り憑かれ。
ただ役目を果たす為に。邪神を滅ぼし、里の仇討ちをする為に。
それだけの為に生きていた私の、なんと虚しいことか。
それが虚しいことだとも気づかず、ただ一人で生きていた。
自分がどれほど大きな孤独を抱えているかということさえ、全く気づかずに…。
だけど、二十音が全部教えてくれた。
私の孤独を、一瞬で吹き飛ばしてくれた。
私の心に空いた大きな穴を、そっくり満たしてくれた。
誰かを愛し、誰かに愛されることの幸福を教えてくれた。
どうして、今更正しい道に戻れるだろう?
「不安になっているんですか?シルナ様…」
「…そうだね。私は…とても不安だよ。自分が何者なのか、分からなくなって」
どうするのが正解かなんて、とっくに分かってる。
でも、正しさが人を救うとは限らない。
少なくとも、私は正しさに救われなかった。
私が救われたのは、正しい道に背を向けたからだ。
どうしても、正しい道に戻れない。
…いや、違う。
戻りたくないのだ。私は。正しい道に。
ずっと、踏み外した道に生きていたいと願っている。
それが罪だと分かっていても。
「そんな…。心配しなくても、シルナ様はシルナ様ですよ。今も昔も、変わらず」
ヴァルシーナちゃんは、私を安心させるように微笑みながら言った。
「私の知る、優しい聖賢者様です。胸を張って、誇りを持って生きてください」
「…ヴァルシーナちゃん…」
…そう、だね。
胸を張って、誇りを持って…。
私は、私の選んだ道を生きていく。
それが正しいか、間違っているかは関係ない。
…この数日間、私はずっと考え続けていた。
自分がどうするべきなのかについて、ずっと。
このまま、この世界に留まれば。
私は正しい道に戻れる。イーニシュフェルトの聖賢者として、自分の役目を立派に果たした世界に。
その結果得たものは、確かに私の心を空虚にするだけだ。
でも、結果として多くの人が救われている。
ヴァルシーナちゃんも、ヴァストラーナ族長も、その他ルーデュニア聖王国に住む大勢の人々が。
そして、救われたのはヴァルシーナちゃんだけじゃない。
私が世界で一番大切な人も。
…二十音もまた、この世界で救われていた。
二十音と出会う前の私は、まさにこんなものの為に生きていたのだ。
ヴァストラーナ族長以下、イーニシュフェルトの里の死者の亡霊に取り憑かれ。
ただ役目を果たす為に。邪神を滅ぼし、里の仇討ちをする為に。
それだけの為に生きていた私の、なんと虚しいことか。
それが虚しいことだとも気づかず、ただ一人で生きていた。
自分がどれほど大きな孤独を抱えているかということさえ、全く気づかずに…。
だけど、二十音が全部教えてくれた。
私の孤独を、一瞬で吹き飛ばしてくれた。
私の心に空いた大きな穴を、そっくり満たしてくれた。
誰かを愛し、誰かに愛されることの幸福を教えてくれた。
どうして、今更正しい道に戻れるだろう?
「不安になっているんですか?シルナ様…」
「…そうだね。私は…とても不安だよ。自分が何者なのか、分からなくなって」
どうするのが正解かなんて、とっくに分かってる。
でも、正しさが人を救うとは限らない。
少なくとも、私は正しさに救われなかった。
私が救われたのは、正しい道に背を向けたからだ。
どうしても、正しい道に戻れない。
…いや、違う。
戻りたくないのだ。私は。正しい道に。
ずっと、踏み外した道に生きていたいと願っている。
それが罪だと分かっていても。
「そんな…。心配しなくても、シルナ様はシルナ様ですよ。今も昔も、変わらず」
ヴァルシーナちゃんは、私を安心させるように微笑みながら言った。
「私の知る、優しい聖賢者様です。胸を張って、誇りを持って生きてください」
「…ヴァルシーナちゃん…」
…そう、だね。
胸を張って、誇りを持って…。
私は、私の選んだ道を生きていく。
それが正しいか、間違っているかは関係ない。
…この数日間、私はずっと考え続けていた。
自分がどうするべきなのかについて、ずっと。
このまま、この世界に留まれば。
私は正しい道に戻れる。イーニシュフェルトの聖賢者として、自分の役目を立派に果たした世界に。
その結果得たものは、確かに私の心を空虚にするだけだ。
でも、結果として多くの人が救われている。
ヴァルシーナちゃんも、ヴァストラーナ族長も、その他ルーデュニア聖王国に住む大勢の人々が。
そして、救われたのはヴァルシーナちゃんだけじゃない。
私が世界で一番大切な人も。
…二十音もまた、この世界で救われていた。