神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
良かった…か。

帰ってくることが出来て、良かったと思って良いんだよな。

皆が幸福な世界を、俺一人の我儘の為に壊してまで…。

帰ってこられて良かった、なんて思ってるのは俺だけだ。

そのせいで、皆の幸せを台無しにしてしまった。

だからこれは、俺が背負うべき責任。

シルナが常に背負っているものの重さが、ようやく少し分かったような気がした。

それでも俺は、戻ってこられて良かったと思った。

皆の幸福を犠牲にしているんだから、せめて俺だけは、この選択を後悔しないようにしよう。

きっとシルナも…同じ葛藤を抱えて、同じ過酷な選択を迫られて。

それでも、ここに戻ってくることを選んだ。

泥臭くて暗くて、ありとあらゆるしがらみや、大小様々な不幸がひしめいている…。

…だけど、俺とシルナが一緒に居られる世界を。

これ以上大切なことなんて、他にはないように思えた。

「…あ、そうだ…!」

感傷に浸っている場合じゃないんだった。

決闘の最中なんだってことを忘れるな。

俺は改めて、対戦相手を。

立ち上がって、ハクロとコクロに対峙した。

先程の摩訶不思議な幻世界を作り出し、俺達に見せていた張本人。

こいつらのせいなんだろう。さっきまでのは…全部。

帰ってくるのか否かの選択をしたのは、紛れもなく俺だ。

その責任を、ハクロとコクロに押し付けるつもりはなかった。

それは俺が背負うべきものだから。

だけど、俺達にあのような辛い選択を迫った。

その落とし前は、つけてもらっても構わないよな?

「…まさか、戻ってくるとは」

「予想外でしたね」

ハクロとコクロは、静かに俺達を見つめていた。

帰ってきた瞬間を狙って、実力行使でぶん殴ってくる…とかいう、卑怯な手を使わなかったことには感謝する。

さすがに、寝起きで攻撃されたら避けられないところだった。

だが…。

「あなた方の抱える闇は、どうやら予想以上に深かったようです」

「かつて、正しい道から背を向けて、私利私欲の為に邪神に傾倒するという選択をした…」

「そして今回もまた、仲間の幸福を犠牲にしてでも、己の欲望を優先した」

「その欺瞞、身勝手、傲慢さは、今も変わらないと言ったところですか」

…うるせぇ。

二人して交互に喋んな。
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