神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
俺達は正しいであろう道に背を向け、ありとあらゆる罵倒を受ける覚悟で帰ってきたのだ。

生半可な覚悟で帰ってきた訳じゃない。

それをとやかく言われて堪るか。

それとも何か。負け惜しみか?

このまま一生帰ってこないと思ってたら、案外早く帰ってきたもんだから。

それで、必死に負け惜しみを言ってんのか?

「…」

俺は、自分の懐から懐中時計を取り出し、今の時間を確認した。

…あっちの世界では、余裕で一週間以上経ってたんだけどな。

こっちの世界では、なんと決闘開始から1分も経っていない。

精々、30秒程度しか過ぎていないのである。

時間の感覚、おかしくなりそうだな。

ってことは、観客席から見ていたギャラリーにとっては。

俺とシルナが揃って気絶し、意識を失ったかと思ったら。

ほんの10、20秒程度で目を覚まし、こうしてハクロとコクロに再び対峙しているように見えている訳か。

これでも、結構大変だったんだぞ。

眠っているその十何秒かの間に、本当に色んなことがあったんだ。

信じられないかもしれないけど。

こっちでも、幻の世界の世界と同じく一週間くらい経ってて、決闘終わってたらどうしようかと思った。

そうならなくて良かった。

かろうじて、まだ負けてない。

元の世界に戻れるなら、決闘の結果なんてどうでも良いとは思ってたが。

だからって、負けて良い訳じゃないからな。

「君達が使ったのは、幻覚…そして催眠魔法といったところかな」

と、シルナがハクロとコクロに尋ねた。

幻覚…催眠魔法。

そんなもの使われたのか?俺。

怖っ…。

でも、そう考えれば、さっきまでの謎世界にも説明がつく。

幻の世界だとは思ってたが、本当にただの幻だったのか…。

「えぇ、そうです」

「仰る通りですよ」

ハクロもコクロも、馬鹿正直に頷いた。

今更隠すつもりはない…と。

幻の世界…。幻覚魔法と催眠魔法で見せられた…。

その幻に、散々振り回された俺って、一体。

幻とは思えないくらい、リアルな世界だったぞ。

痛覚も普通にあったから、ほっぺた抓って覚める夢とは訳が違う。

あれほど再現度の高い幻覚を見せるとは。

予想はしていたが、この二人…十把一絡げの魔導師じゃないぞ。

さすが、決闘の三回戦に選ばれただけのことはある。

ナツキ様の虎の子といったところか。

まぁ、そんな幻は打ち破って…見事に帰ってきてやったけどな。
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