神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
ざまぁない奴らだ。

幻覚はあくまで幻覚だってこと、理解したようだな。

「…確かに、君達の見せる幻の世界は、それなりに魅力的だったよ」

と、シルナが言った。

…まぁ、そうだな。

それは認めざるを得ない。

「だけどね…あれは本物じゃない。誰もにとって都合の良い世界なんて有り得ない」

「…」

「辛くても、苦しくても…正しくなくても、私達は本当の世界で生きていくことを選んだんだ。幻じゃなくて、真実の世界でね」 

幸福感を感じさせる為なら、麻薬漬けにしても良いじゃないかって。

ハクロとコクロがやってるのは、そういうことだからな。

確かに幸福感は感じられるかもしれないが、それは現実じゃない。そうだろう?

薬に頼ってまで幸福感を求める…その気持ちは、分からなくもないが。

でも、そんなものを得ても虚しいだけだ。満たされない空虚が深くなるだけだ。

それなら俺達は、例え間違った世界でも、不幸な世界だとしても…現実を生きていたい。

ましてやそこに、シルナが居るなら。

他に求めるものなんて、何もない。

「…そうですか」

「あなた方の覚悟は、よく分かりました」

ハクロとコクロが、それぞれ言った。

…さて、それじゃあどうする?

もう一度幻覚を見せるか?

あるいは、催眠魔法を使うか?

どっちでも良いけど、今度は安々と当たってやらないからな。

むしろ、こっちから仕掛けてやろうか。

…そう思ったが。

「ならば、勝負はこれで終わりです」

「これ以上、戦う必要はありません」

ハクロとコクロは、杖を収めてそう言った。

…。

…はい?

俺は思わず、耳を疑った。

「終わり…って何だよ?どういう意味だ?」

てっきり、ラウンド2が始まるものと思ったのだが。

今度は何だ?皆が俺達の宿敵になって、仲間達から追われまくる世界とは?

それはそれで嫌だ。

しかし…。

「言葉通りの意味です。決闘はもう終わりました」

「あなた方が現実世界に戻ってこられたなら、我々は潔く負けを認めると言いました」

「あなた方はこうして、現実世界に戻ってきた。従って、この決闘はあなた方の勝ちです」

「我々は、一度口にしたことは違えません」

お前らは、必ず交互に喋らなきゃ気が済まないのか。

いや、それよりも。

決闘がこれで終わり…しかも、俺達の勝ちって…マジで?
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