神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
絶対ゴネまくられると思ってたから、めちゃくちゃ拍子抜け。

そうだ。ナツキ様は?

勝手に負けを認めるなんて、あのプライドの高い王様が許すとは、到底思えなかった。

しかし。

「…」

ナツキ様は不機嫌そうな顔をして、それでも異論を唱えることはなかった。

…マジで?

「えっ…。そ、その…」

これには、ミナミノ共和国の審判、マミナ・ミニアルも困惑。

また二回戦のときみたいに、卑怯な言いがかりをつけてくるかと思ったのに。

今回は、それもない。

本当に?

本当に、潔く負けを認めると言うのか?

どういう風の吹き回し…?

「な、ナツキ様…。宜しいのですか…?」

マミナは自分が審判であることも忘れて、ナツキ様に尋ねた。

おい。あんたは一応中立の立場じゃないのか。

「勝手にしろ」

ナツキ様は、不機嫌そうに吐き捨てた。

勝手にしろって、それはつまり…。

「そ、それでは…。三回戦は、ルーデュニア聖王国、シルナ・エインリーと羽久・グラスフィアの勝利となります…」

マミナは戸惑った表情で、頼りない口調で言った。

もっと堂々と言ってくれよ。

…俺達、勝ったんだよ…な?

「よって…二勝一敗で、この度の決闘はルーデュニア聖王国の勝利…です」

相変わらず戸惑ったまま、それでもマミナは、ルーデュニア聖王国の勝利を告げた。

…よくもまぁ、あの絶望的な状況から、大逆転勝利を収めたものだ。

正直、勝てると思ってなかった。

未だに信じられなくて、勝利の雄叫びをあげるのも忘れていた。

「…シルナ…。俺達、本当に勝ったんだよな…?」

それどころか、まだ勝利の実感が湧かなくて、シルナに確かめてしまう始末。

「う、うん…。そう…みたいだね」

シルナも負けないくらい挙動不審だから、こっちもまだ勝利が信じられない様子。

そりゃそうだよ。

こんなに呆気なく…勝敗が決まるなんて。

ナツキ様が、妙に聞き分け良く引き下がるもんだから。

もっと色々…難癖つけてくるかと思ったのに。

自分の懐刀があっさり敗北したものだから、ナツキ様もとうとう、潔く負けを認めることにしたのかもしれない。

これでもう決闘は終わったとばかりにナツキ様は俺達に背を向け、観客席から立ち去った。

これは惜しいことをした。ゲロ顔を晒したナツキ様を、もっとじっくり見ておきたかったのに。

いや、それよりも。

「…か、勝った…のか」

もっとこう、叫んだり跳ねたりして、勝利を噛み締めたかったのだが。

実際勝利してみると、そういう大袈裟な喜びは全然なくて。

ただただ、ホッとしたような肩の荷が下りたような…安心した気持ちだった。
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