神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
つーか、こんなにあっさりナツキ様が引き下がるとは思ってなかったから。

もっと揉めると思ってたよ。二回戦のとき…いや、それ以上に。

「折角勝ったのに、いまいちこう…『やったぜ!』みたいな気分にならないな」

と、キュレムが俺の考えていることと同じ感想を述べた。

それな。

「地味でしたからね、三回戦。二人共何秒か気絶したと思ったら起きて、すぐ勝利宣言でしたから」

ルイーシュが言った。

成程、盛り上がりに欠けるのはそのせいか。

って、俺達の決闘、何もエンターテイメントじゃないからな。

お前達の目には、ただ俺達が気絶してるだけのように見えたかもしれないが。

俺とシルナは、一週間以上戻ってこられなかったんだから。

めちゃくちゃ大変だったんだぞ。ただ寝てるだけのように見えて。

「どんな形であれ、勝ちは勝ちだよ。…良かった」

安心したように、吐月が言った。

更に、天音が心配そうに尋ねた。

「大丈夫?怪我はしてない?」

「あぁ、大丈夫…。幻覚を見てただけだから」

激闘を繰り広げた一回戦二回戦に比べたら、確かに三回戦は地味だっただろうな。

誰も怪我してないし。

俺とシルナなんて、全く魔法も使ってないし。

ただ幻覚を見てただけ。

何だったんだろうな、今の決闘…。

…でも、吐月の言った通り、勝ちは勝ちだ。

「さっさと帰っちゃったね」

「負け犬の顔を見られるの、嫌だったんじゃない?」

「ちゃんと約束は守ってくれるんだろうね?」

「さー。でも、一応国と国との約束だからねー。守るんじゃないの?」

と、令月とすぐりが言い合っていた。

約束…は、守ってくれると信じよう。

今頃、港に押し寄せたアーリヤット国軍に、全軍攻撃を開始せよ、って命令出してないだろうな。

決闘で勝敗を決めると約束した以上、負けたからには、俺達に従ってもらうぞ。

でないと、決闘した意味がないからな。

「勝利の余韻に浸っている暇はありませんよ。ここはアーリヤット共栄圏なんですから」

と、イレース。

「また難癖をつけられて、フユリ様のように国内に閉じ込められる前に…さっさとルーデュニア聖王国に帰るべきです」

「…そうだな」

サミットの最中、フユリ様はあれこれと難癖をつけられて、ミナミノ共和国に軟禁されていた。

俺達もそのときも同じように、ミナミノ共和国に閉じ込められかねない。

引き留められる前に、早くルーデュニア聖王国に帰るべきだ。

ナツキ様が約束を破って、ルーデュニア聖王国を攻撃しないとも限らないしな。

勝利の余韻に浸るのは、決闘に負けたことを潔く認め。

約束通り、フユリ様と話し合いに来たナツキ様の、負け犬の顔を見てからにしよう。
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