神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…チョコパーティーはそのまま、三時間くらい続いて。
 
招待客がそれぞれ帰宅して、イレースや天音達も自分の部屋に帰った後。

「はー。食べた食べた…。幸せだったー」

「…」

シルナはようやく、飽きるほどチョコスイーツを食べて満足していた。

今日くらいは、羽目を外しても良いって言ったけどさ。
 
あれ、撤回するよ。

物事には限度ってものがある。限度ってものが。

その限度ってものを理解してない。この男。

今日、このお疲れ様会でシルナが一人で消費したチョコスイーツの量を知ったら、誰しも腰を抜かしてたまげると思う。

それくらい食ってた。マジで。

バケモンだぞ。

「羽久が私に失礼なこと考えてる気がするけど…お腹の中がチョコレートでいっぱいで幸せだから、今は気にならないや…」

「気にならないなら遠慮なく言わせてもらうけど、食べ過ぎだよお前。お腹の中どころか、頭の中までカカオ詰まってんじゃね?」

「羽久が私に失礼なこと言ってる!」

気にならないんじゃなかったのかよ。

ガッツリ気にしてんじゃん。

「でも、一週間我慢したんだよ?私が一週間に消費するお菓子を、一日で食べたと思ったら…意外と少ないような気がしない?」

成程、確かにそう考えると少ない…。

…って、そんな訳ないだろ。

多いわ。一般人の基準だったら、一ヶ月分でも多いくらいだよ。

やっぱり頭の中、カカオ詰まってんじゃね?

まぁ、良いや。

「心ゆくまで食べたか?満足したか」

「うん、満足した。やっぱり砂糖は偉大だね」

この世のあらゆる問題、砂糖とチョコで解決したら簡単なんだけどな。

世界にシルナしかいなかったら、多分それで解決する。

「また羽久が、私に失礼なこと考えてる気がするよ…」

「気のせいだ」

「…でも、この世界に羽久がいるってだけで…そう思うだけで、何だか安心するよ」

「…」

…それは…俺も同感だな。

何も考えずに、ひたすらチョコばっか貪っていられるのも。

そんなシルナを見て、やれやれと呆れることが出来るのも。

お互いの、無事な姿を確認出来たから…なんだよな。

そうじゃなかったら、心配で何も手につかなかった。

つい数日前…幻覚の世界にいたときは、こんなありふれた、ささいな幸福が堪らなく恋しかった。

ルーデュニア聖王国に帰ってきてから三日間。

俺とシルナは、あの日の決闘で互いがどのような幻を見ていたのか、互いに話し合うようなことはしていない。

お互い、察してはいるけど…何となく口に出すのが憚られて。

俺が、シルナのいない世界に居たように。

シルナもまた、俺のいない世界に居たんだろうな。

でも、それが耐えられなかったから。俺と同じように、そんな世界に耐えられなかったら。

二人で戻ってきた。二人共…同じことを考えて、同じ望みを抱いて…帰ってきた。

だから俺達は今、ここに居るのだ。
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