神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
絶対楽しい思い出じゃないに決まってるからな。
 
『不思議の国のアリス』のときも、なかなか酷い目に遭わされたもんだが。

罪悪感をめちゃくちゃ煽られる分、今回の方が精神的にキツかった気がする。
 
あれは幻覚、あれは本物じゃない…と何度も自分に言い聞かせて、ようやく正気を保っている。

多分、シルナにとってもそうだと思う。

「はー、美味しかった…」

「…なぁ、シルナ」

「んー?」 

「…その…決闘のときのことだけど」

「あぁ、うん…」

…一気に、何だか気まずい空気にしてしまって恐縮だが。

「多分、お前と俺と同じような世界に居て、同じようなものを見たんだろうから、詳しくは聞かないけど…」

「うん」

「…俺達、帰ってきて…良かったんだよな?」
 
選択のときは過ぎたのに、今更何言ってんだと思われるかもしれないけど。

でも、誰かに肯定して欲しかった。

せめて、同じ選択をして戻ってきたシルナにだけは。 

自分達の選択は間違っていなかったのだと、そう信じたかった。

「…そうだね。少なくとも私は…戻ってこられて良かったと思ってるよ」

「…あぁ」

「だって、また羽久に出会えたから。それ以上大切なことは、私にはない」

「そうか」

俺もだ。
 
俺も同じように思ってるよ。

「…だけどね、羽久。一つだけ聞いても良い?」

…ん?

「何だ?」

「羽久は…あの幻の世界にいたときの記憶、残ってる?」

記憶?

「…?覚えてるよ。夢見てた訳じゃないからな」
 
「そっか…。実は、私も覚えてるんだ。あの幻覚の世界のこと」 

…それが、どうかしたのか?

「いっそ忘れたかったんだけど…。今もまだ、鮮明に覚えてる。…死者蘇生の魔法。そのやり方についても」

「…!」

死者蘇生…だと?

何でそんな…禁忌の魔法の話が出てくる?

シルナは一体、どんな幻を見ていたんだ?

「どういうことだ…?」 

「…聞いてくれる?私の見ていた幻の世界のこと」

そう前置きして、シルナはシルナ自身が見ていた幻の世界について、簡単に説明してくれた。

聞かないつもりでいたのに、結局聞いてしまったよ。
 
そして俺は、その世界のことを聞いて仰天してしまった。
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