神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
多分どんな世界だったんだろうって、想像はしていたけど…。

…予想以上だった。

まさか、俺の代わりにヴァルシーナがシルナの右腕を務めていたとは。

いや、それ以上に。

イーニシュフェルトの里の族長を…蘇らせていたなんて。

死者蘇生の魔法って…都市伝説の類だと思ってたんだが?
 
「…幻の世界で私は、死者蘇生の魔法に関する研究資料をまとめたファイルを見たんだ」

と、シルナは語った。

「そのファイルの内容…今も克明に覚えてる。忘れようと思っても忘れられない」

シルナの奴、普段はぽやーっとしてるし、チョコばっか食べるし、さっきまで使ってた鉛筆を何処に置いたか忘れた、って探し回ってる癖に。

そういう知識…特に魔導理論に関する知識は、決して忘れないからな。

一度読んだ魔導書の内容とか、隅から隅まで覚えてる。

その記憶力は、幻の世界でも健在だったという訳か。

末恐ろしいな。

もしかして、狂ったようにチョコ菓子食べてたのはそのせいか?

幻の世界で見た死者蘇生魔法のことを忘れたくて、自棄食いしてたとでも言うのか。

食べたくらいじゃ忘れられないよ、お前は。

「私は幻の世界で、死者蘇生の魔法をほぼ完成させていた。あのファイルに書かれていた方法を使えば、現実世界でも同じように…」

「死者蘇生が出来るって言うのか?そんな馬鹿な…。あれはあくまで幻だろう?」

現実じゃない。死者蘇生を完成させたって言っても…それはあくまで、幻の世界での話だ。

現実でも応用出来るとは限らないじゃないか。

…しかし。

「いや…出来ると思ったんだ。あの方法を使えば」

シルナは、珍しく難しい…神妙な顔をしてそう言った。

「死者蘇生の魔法については、元々やろうと思えば出来なくもないと思ってた」

「…それは…」

「ただ、必要がないからやらなかっただけだ。禁忌を犯してまで、蘇らせたい人なんていなかったから…。積極的に研究しなかっただけで」

もし…クュルナの親友のように、禁忌を犯してでも蘇らせたいと思う人物がいたら。

シルナはきっと、今も取り憑かれたように死者蘇生魔法の研究をしていただろう。

幻の世界のシルナが、そうだったように…。

「勿論、羽久の言う通り…ここは現実の世界であって、幻の世界のように、簡単には行かないかもしれないけど…。あのファイルにあった方法を使えば、恐らく成功する…そう思うんだ」

「…」

恐らくこの国で誰よりも、優れた魔導理論に関する知識を持っているシルナが、確信を持ってそう言えるのなら。
 
確かにそうなんだろう。本当に…死者蘇生が可能なんだろう。

とても信じられないが…シルナの言うことなら、俺は信じられる。
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