神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「…勿論、方法が分かるからって、やるかどうかは別の話だよ」

と、シルナは微笑みながら言った。

「私は誰かを蘇らせるつもりはない。死者蘇生の魔法のことは…それこそ、墓場まで持っていきたいと思ってる」

墓場まで…か。

シルナが墓場に行くのはいつのことになるんだ?

「…今のところは、だけどね」

「…必要があったらやる、ってことか?」

「やるだろうと思ったんだ。私のことだから。あのファイルを見たかどうかは関係ない」 

シルナは相変わらず、自嘲気味に笑って言った。

「もし、もしもだよ?羽久の身に万が一のことがあったら…」

…あぁ、成程そういうこと。

あまり考えたくないな…そういう「もしも」は。

「そのとき私は、躊躇いなく禁忌を犯すと思う。どんな手段を使ってでも、私は羽久を生き返らせる」

はっきりと、シルナは断言した。

少しも躊躇う様子はなかった。

ここまで堂々と「私は禁忌を犯します」と宣言されてしまったら。

こちらとしては、もう何も言えない。

俺に出来ることは、シルナの、その覚悟を…同じように受け止めることだけだ。

「羽久に限らず…必要に迫られたら、私はやると思う。自分の命より大切な命があるなら…きっと」

「…」

「このことは、誰にも内緒にするつもりだったけど…。羽久にだけは知っておいて欲しくて。だから話した」

…そうか。

一人で抱え込まず、素直に俺に話したことは褒めてやるよ。

「…分かった。お前がそう言うなら…俺も、同じものを背負うよ」

それが、俺の為に平気で禁忌を犯すと言ってくれたシルナに、俺が報いてあげられる唯一のことだ。

お前がこのことを墓場まで持っていくと言うなら、俺も同じように、墓場まで持っていく。

禁忌を犯すと言うなら、俺も同じように、シルナと同じものを背負う。

俺達は、一蓮托生だからな。

「ありがとう、羽久…」

シルナが背負う重荷を、少しでも俺が肩代わり出来るのなら、それ以上に望むことは何もなかった。





…そして。

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