神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「えっ。マシュリ君、またいなくなっちゃったの?」

「…らしい」

教師陣を学院長室に招集して、そのニュースを伝えると。

朝のモーニングチョコビスコッティを貪っていたシルナは、驚いて食べる手を止めてしまった。

お前、昨日あれだけ食ったのに、今朝になってまた食うの?

チョコ狂いのシルナのことは、この際どうでも良い。

それよりマシュリだ。

「あの脱走猫、やっぱりケージに入れて飼うべきなのでは?」

と、こめかみに血管を浮き立たせたイレース。

同感だよ。

今度から、あの猫室内飼いにしてさ。ケージに入れて飼おう。

え?可哀想?

動物愛護団体的なところに怒られる?

知らん。脱走する奴が悪い。

つーか、厳密には猫じゃなくてケルベロスだからセーフ。

「何処に行っちゃったんだろう…?ナジュ君、何か知ってる?」

「さぁ。ただ、決闘から帰ってきてからというもの、やけに僕のことを避けるなーとは思ってましたけど…」

天音が尋ね、ナジュが答えた。

ナジュを避けてる…ってことは、心を読まれたくなかったってことだろう。

ナジュに心を読まれて、困るようなことがあったんだ。

「決闘に負けたから悔しくて、不死身先生に知られたくなかったんじゃないの?」

「あー。それはあるかもねー」

令月とすぐりが言った。

どうでも良いけどさ、俺、教師陣を呼び集めただけで、お前らは呼んでないんだけど。

何故、当たり前のように混ざっているのか。

そろそろ授業始まる時間だろうが。教室に行けよ。

まぁ、今はそれどころじゃないから良いけど。

それに、追い返したら今度は、天井裏とか床下に潜み始めるから。

「あいつ、律儀っつーか真面目な性格だもんな…。自分が不甲斐ないせいで…とか思ってるのかも」

「でも、最終的に決闘は勝ったんだからいーじゃん。マシュリのせいで負けたんだったら、責任感じるのも無理ないけどさー」

…確かに。

確かに二回戦は負けたけど、最終的にルーデュニア聖王国が勝ったんだから、別に責任を感じる必要はないのでは?

だったら、何で…。

「決闘の勝敗じゃなくて…。その…決闘中のときのことを気にしてるんじゃないかな」

天音が言いにくそうに、おずおずと切り出した。

…それは、つまり…その。

「神竜…バハムートに『変化』したことか」

「…うん…」

「…」

「…」

皆同じように疑問に思っていたに違いないが、敢えて口には出さなかった。

決闘の二回戦でマシュリが見せた…神竜、バハムートに『変化』した姿。

あれは結局、何だったのだろうか。
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