神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「よし、こうなったら人海戦術だ」

「…人海戦術?ってどうやるの?」

「街中に『この猫探してます』の写真入りポスターを貼って、情報提供を呼びかける」
 
非常に古典的な方法だが、これしかないのだから仕方ない。

「…それ、ただの迷い猫探しじゃん」

迷い猫なんだから良いだろ。

「猫形態で移動してるなら、それで見つけられるかもしれませんが…。人間形態でうろうろしてるなら、見つけられませんね」

うっ、確かに。 

「この際、二種類用意しようか。人間用と猫用…」

そう、それだシルナ。

この人探してます、と、この猫探してます、のポスターを二枚並べて貼っておこうぜ。

どっちかが見つかる。

「ぬりかべ形態でうろついてたらどうします?」

「それはそれで見つかるだろ。ぬりかべが出たら、誰だって大騒ぎするだろうから」

「成程」

幸い、猫より小さい生き物には『変化』出来ないそうだし。

街中にぬりかべとかペガサスとか一反木綿が出たら、珍獣出現でニュースになること間違いなし。

よし、これだ。

「早速ポスターを用意して、貼りまくってこよう」

「連れ戻しても、どうせまた脱走するでしょうし。余分に印刷しておきましょう」

イレース、それナイスアイデア。 

ついでにリードも飼って、柱に結んで繋げておこうぜ。
 
あとケージな。

「あの人騒がせ猫…。戻ってきたら、罰として一週間くらい、餌を減量してやりますから」

「い、イレースさん。ど、動物虐待は良くないよ…」

「大丈夫です。煮干しくらいはくれてやりますよ」

一週間、餌は煮干しだけ。

その煮干しでさえ、脱走猫には勿体無いな。

え?動物虐待?

知らん。脱走する方が悪い。

あと、何度も言うけどあいつ猫じゃなくて、ケルベロスだから。セーフ。

そうと決まれば、早速ポスターを…と、動き出そうとしたその時。

「…えっ…」
 
「ん?」

ナジュが突然、振り向いて窓の外を見つめた。

…?

「…ナジュ、どうした?」

「今、何か…。…向こうの方角に」

と言って、ナジュは窓の外を指差した。

あ…?

「この禍々しい気配…。もしかして…」

「どうした?何を感じた?」

「…行ってみましょう。案内するから、何も言わずについてきてくれませんか?」

突然何を言い出すんだ、と皆思ったに違いないが。

ナジュの目があまりに真剣なものだから、すぐに真面目に言っているのだと分かった。

…いきなり、何のこと言ってるのか分からないが。

俺達はナジュの案内する方に、ついて行くことにした。
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