神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
仲間達には、何も言わなかった。

言えば、巻き込んでしまう。

僕が一人で背負うべき罪を、彼らにも背負わせてしまうことになる。

それが嫌だったから、何も言わずにここに来た。

本当は、もっと早く…決闘の後に聞かれるかと思っていた。

僕が何故、バハムートに『変化』出来るのかと。

当然聞かれるものだと思っていたのに…誰も、僕にそれを聞かなかった。

バハムートという種族のことを知らないから?

そんなはずはない。

例え羽久達が知らなかったとしても、リリス様は当然知っているはずだし。

あの博識な彼らが、神竜たる存在を知らないはずがない。

それでも彼らが僕に何も聞かなかったのは、僕が聞かれたくないであろうことを察して、気を遣ってくれていたからだ。

僕が言いたくないことを、無理に言わないで済むように。

敢えて何も聞かず、普通に接してくれた。

そういう人達なのだ、あの人達は。

そういう…優しい人達だから。

だから、余計彼らを巻き込みたくなかった。

僕のことなんて忘れて良い。

彼らの長い人生の1ページに埋もれて、何年後かには忘れ去られてしまう存在になれば良い。

ただ、僕の薄汚い一生の中で、彼らのような優しい人々に出会えた。

彼らと、そしてスクルトと…。

この世界は、存外、悪いことばかりではなかった。

そう思える人々に出会えたのだから、僕はそれで良い。

罪を犯したこの身には、勿体無いくらいだ…。

僕にとって一生に一度の『変化』を、そんな彼らの為に使えたのなら…本望だ。



「…よくも、契りを違えたな」



…来た。

僕が現れるのを待っていたかのように、「それ」は冥界の扉からやって来た。

僕のような、薄汚い混血とは違う。

白い鱗。白い翼。神々しい…純血の神竜、バハムート族の長。

怒りに燃える鋭い目が、僕を睨みつけた。
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