神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
この約束があったから、僕はこれまでバハムートの姿に『変化』したことはなかった。

だってバハムートに『変化』したら、僕は約束を破ることになる。

約束を破り、契りを違えれば…待っているのは裁きだけ。

そう、僕に相応しい…死だけだ。

覚悟は出来ている。

だから、逃げも隠れもしなかった。

…ただ一つ、後悔があるとしたら。

僕は、君達と一緒に生きる明るい未来を…。

スクルトが予言した、明るくて幸福な未来を。

もっと長く、一緒に見ていたかった。

でも…それは贅沢な悩みだね。

「…神竜族の長よ」

僕は自ら、神竜バハムートに語りかけた。

「契りを違えたのは、この僕の罪。僕一人だけが背負う責任…。だから、僕の周りにいた人々のことは、許してあげて欲しい」

羽久・グラスフィアやシルナ・エインリー達は、僕がバハムートに『変化』するところを目撃した。

禁忌の『変化』を目撃した彼らも、一緒に始末されてしまう恐れがあった。

そんなことはさせない。

罪を被るなら、それは僕だけが背負うべき役目だ。

「彼らは口が固く、分別もある。始末しなくても、神竜族の…恥を広めるようなことはしないでしょう」

「…」

「…だから、どうか…裁きを受けるのは、この僕だけに…」

僕は両手を合わせ、跪くようにして乞い願った。

何としても、これ以上彼らに火の粉が降り注ぐのを止めなければならなかった。

それさえ約束してもらえるなら、僕はどれほど酷い裁きを受けても構わない。

ずたずたに引き裂かれて、骸を残さずにこの世から消えてしまっても構わないから。

だから、どうか。

僕に優しくしてくれたあの人達が、罪の咎めを受けないように。

…すると。

僕があまりに、必死に懇願するものだから、だろうか。

それとも…元々、契りを違えた僕を始末することにしか、興味がなかったからだろうか。

「…良かろう」

神竜族の長はそう呟いた。

「…ありがとう、ございます」

高貴な神竜族の長だ。僕は簡単に約束を破っても、彼は約束を破らない。

仲間達の命を見逃してくれるのなら、僕が思い残すことは何も…。

…。

…何もない。もう充分だ。

罪を犯したこの身には、充分過ぎる幸福…。

バハムートの長から、爆発的な殺気が放たれた。

僕は頭を垂れて、僕を焼き尽くす神竜の炎が…。

罪の裁きが下されるのを、静かに待った。

本当に、今度こそ…これで最後。

思い残すことはない。

思い残すことなんて…。

「…スクルト…」

自分でも気づかないうちに、一筋の雫が頬を伝って落ちた。

「僕達の…未来は」

この終わりを、君も見ていたのだろうか。





…しかし。




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