神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
裁きの炎が、僕の身を焼くことはなかった。

「マシュリ!!この馬鹿っ…!」

聞き覚えのある声がして、僕はハッとして顔を上げた。

「…!君達は…!」

もう二度と会うことはないと思っていた。

ついさっき、神竜族の長に命乞いをした人々が。

羽久・グラスフィアやシルナ・エインリー…。その他、イーニシュフェルト魔導学院の人々が。

すんでのところで時間を止め、神竜の炎を防いでいたのだ。

何で…。

…何で、彼らがここに。

「どうして来たんだ…!」

どうやって、ここが分かった?

黙って出てきたはずなのに。

いや、それよりも…。

折角、ついさっき…君達の命だけは奪わないと約束してもらったのに。

まさか、自分達の方から首を突っ込んでくるなんて。

「神竜に逆らったら…君達まで僕と同じ罪を、」

「うるせぇ、この馬鹿!」

羽久が、僕の胸ぐらを掴んで叫んだ。

「お前の!罪じゃないだろう!!」

…彼が。

僕にその言葉を言うのは、これで二度目だった。

…何で、そんなことを言うんだ。

全部覚悟を決めて、一人で背負おうと決めて、ここに来たのに。

どうしてこの期に及んで君達は、僕の罪を…。

「こんなものが本当に、お前の望んだ未来なのか!?」

「…それは…」

…違う。

僕はこんな未来を望んだ訳じゃない。

こんなところで終わりたくない。もっと明るい未来を…。

…仲間達と共に生きる、そんな夢みたいな未来を見たかった。

だけど、そんなの…この僕に許されるはずがないじゃないか。

「そんな未来…僕には許されない…」

「許されないほど重い罪だって言うなら、俺達が一緒に背負ってやる」
 
彼は自分が何を言っているのか、ちゃんと理解しているのだろうか。

その発言は、冥界で最も高貴な種族と言われる神竜族を敵に回すようなものだ。

そんなことをしたら、彼らまで一緒に…。

「…お前は、生きていたいんだろ?馬鹿マシュリ」

「…」

「だったらそう言えよ。何も恥ずかしいことなんかじゃない。生きてたい、幸せになりたいって望むのは…人間だろうとキメラだろうと竜だろうと…誰だって同じだ」

…そう。

僕も望んで良いんだ。この罪の身でも…。

普通に…幸せな未来を夢見て生きて良いんだって…。

…例え、それが許されないことでも。
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