神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
――――――…間一髪、危ないところだった。

ナジュが案内する方向に、全速力で駆けつけてきたところ。

既に、審判は下されようとしていた。

マシュリは全く抵抗することなく、神竜に殺されようとしていた。

俺は咄嗟にマシュリの前に出て、間一髪、時間を止めて神竜の炎を防いだ。

あと一分、一秒でも遅れていたら。

裁きの炎が、マシュリを包んでいただろう。

だが、そうはさせない。 

初めて見る本物の神竜に、臆している暇はなかった。

神竜?バハムート?知ったことか。

俺達の仲間を。 

マシュリを傷つけようとするなら、例え神であろうとも、俺は絶対に許さない。

「貴様ら…何故邪魔をする?」

突如として現れた俺達に、神竜は苛立ったような声で聞いてきた。

一応、神竜でも普通に会話は出来るんだな。

会話が出来たとしても、話の分かる相手であるかどうかは別の話である。

何故邪魔をするかって?

決まってるだろ。仲間だからだ。

「マシュリに手出しはさせない」

マシュリは生きていくんだ。これからも。

俺達と一緒に。俺達の仲間として。

そして、イーニシュフェルト魔導学院のマスコット猫としてな。

「あんたが神竜だろうと何だろうと、関係ない。マシュリに罪を押し付けるな」

誰も彼も、一方的にマシュリに罪を押し付けやがって。

マシュリが何を悪いことしたって言うんだ?

お前らがそうやって、マシュリを悪い悪いって連呼するもんだから。

素直なマシュリは、自分が悪いんだと思い込むようになってしまったんだろう。

全く勝手な連中ばかりだ。

だがな、俺は何度でも言わせてもらうぞ。

これは、マシュリの罪ではない。

マシュリは何も、悪いことなどしていないのだと。 

「あなたがマシュリ君を殺そうとするなら、私達はそれを阻むだけだよ」

シルナも俺と同じく、神竜にも臆することなく立ち向かった。

そうだ。もっと言ってやれ。

この分からず屋の竜に。

「…忌々しい真似を。貴様らには関係のないことだと、何故…」

「…神竜族の長よ」

竜の言葉を遮って、ナジュが呼びかけた。

こいつ、神竜族の長なの?

本当に、とんでもない奴に喧嘩売ってしまったもんだ。

俺、相手が何者なのかも知らずに喧嘩売ってたんだなって。

いや、そんなことよりも。

「この者はケルベロスの血を継ぐ、謂わば我が臣下。あなたの勝手な判断で裁かれては困る」

ナジュ…じゃ、ないな。あれは。

ナジュの中にいるリリス…『冥界の女王』リリスが、神竜の長に呼びかけていた。
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