神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「この猫がいなかったら、生徒がすぐに気を逸らして、授業どころじゃなくなりますからね」

「一緒に帰ろう、マシュリさん。君はもう、イーニシュフェルト魔導学院にいなくちゃならない人なんだから」

「リリスを穢らわしいと吐き捨てた連中を、許す訳にはいきません」

イレースも天音もナジュも、公然と神竜の長に敵意を向けた。

やっぱり怒ってるじゃん、ナジュ…。

「自分がそうしてもらったように、今度は僕が、帰ってくる場所を作ってみせる」

「君が帰ってこなかったら、ツキナが悲しむしねー。嫌でも帰ってきてもらうよ」

令月とすぐりも、それに並んだ。

…ツキナだけじゃないぞ。

マシュリが帰ってきなくて悲しむのは、俺達も同じだ。

「…神にさえ抗い、正しさから背を向けたこの私が」

と、シルナは神竜族の長に、真っ向から立ち向かった。

「今更…神竜の罪を恐れるとでも?」

…その通りだ。

今更神竜と敵対することなんて、何だと言うんだ?

神に比べれば全部雑魚。

恐れる必要はない。

俺達はただ、守るべき仲間を守るだけだ。

「さぁ、どうする?この場で私達と戦って、決着をつけようか?」

「…竜に逆らいし、愚か者共め」

何とでも言え。

「その選択…いずれ後悔することになるぞ」

勝手に言ってろ。

後悔をしない為に、俺達は選択をするんだ。

今すぐこの場で、俺達をまとめて始末しようと襲いかかってくるのかと思ったが。

神竜の長は、巨大な白い光に包まれたかと思うと。

ぱしゅんっ、と泡が弾けるように…その場から消えてしまった。

…えっ…。

「あいつ…何処に行った?」

まさか、瞬間移動…みたいな?

そんなこと出来るのか?あの竜…。

「ナジュ君…分かる?」

「気配を感じません。…どうやら、帰ったみたいですね」

ずこーっ。

帰ったのかよ。

「偉そうなこと言っておきながら、尻尾巻いて逃げたんですか。骨のない奴です」

と、イレース。

全くだ。大物と見せかけて…実は小物だな?

まさか気高い神竜が、半泣きで覚えとけよ!と捨て台詞残して帰っていくとは。

意外と大したことないんじゃね?

「この場で僕達に挑んでも、分が悪いから…。一時的に撤退しただけだと思うよ」

マシュリが言った。

態勢を整えてから、またやって来るだろうって?

上等だ。

それなら俺達も、そのときまでに準備しておくよ。

そして、改めて返り討ちにしてやる。

何度徒党を組んでやって来ても同じだ。

俺達はマシュリの罪を、一緒に背負うと決めた。

その罪の重さに、もし押し潰されることがあったとしても。

この選択をしたことを、決して後悔はしないだろう。
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