神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
第30章
実際のところ、それで何か問題が解決した訳ではなかった。

俺達がやったのは、謂わばその場しのぎ。

マシュリの言った通り、あの神竜…バハムートの長は、契りとやらを違えたマシュリを許さないだろう。

そんなマシュリを庇っている俺達のことも、許さないだろう。 

今度いつ、また冥界から現世にやって来て。

今度は仲間を引き連れてきて、俺達をまとめて、竜の炎で焼き尽くさんとするかもしれない。

と言うか…多分、そうなるだろう。

勿論、みすみすやられっぱなしになるつもりはないけれど。

こうして俺達はまたしても、余計な敵を増やした訳だ。

こんなことばっかりだな、俺達。

仲間を守る為に、色んなところに敵作ってばっかだ。

でも、後悔は全くしていないのだから不思議。

さて、それはともかく。

俺は宣言通り、放課後までにマシュリを学院に連れ戻すことに成功した。

マシュリは、「僕はもう学院には居ない方が…」とか何とか呟いていたが。

全部聞こえなかったことにして、無理矢理連れて帰ってきた。

俺はマシュリに、何も聞かなかった。

俺だけじゃなくて、シルナもイレースも天音もナジュも、令月とすぐりも。

いや、ナジュは心を読んで知っているから、聞く必要がないだけかもしれないけど。

誰も、マシュリに「あれはどういうことか」とは聞かなかった。

何で一人で、神竜の長と対峙していたのか、とか。

マシュリが破った契りというのは何なのか、とか。

そもそも、何でマシュリが神竜族の血を引いているのかとか…。

マシュリ自身が話したいなら、聞くけど。

そうじゃないなら、こちらから質問するつもりはなかった。

俺にとって大切なのは、マシュリが俺達の仲間でいてくれること。これだけだ。

それ以上に大切なことなんて何もない。

それに…言わなくても、大体想像はつくしな。

わざわざ尋ねる必要はない。

それよりも、俺にはもっと重要なことがある。

何かって?

…決まってるだろ?

何度言い聞かせても、何度言い聞かせても…学院から脱走を繰り返す、この脱走猫に。

どうやって罰を与えてやろうか、ということである。

それはそれ、これはこれだからな。
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