神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
こうして。

マシュリは結局、誰にも何にも罰せられることはなく。

「かりかり。もぐもぐ。かりかり…」

「…」

一心不乱に、高級カリカリを摘んでいた。

美味いの?それ…。

チョコ摘んでるときのシルナみたいだから、多分美味しいんだろう。

それは良いけど、マシュリの姿でカリカリ食うなよ。

ちゃんといろりの姿、猫の姿で食べてくれ。

この絵面だけ見たら、一心不乱に猫用カリカリを貪ってるクレイジーな人間にしか見えない。

…まぁ、良いか。

生徒も言ってたけど、ちゃんと帰ってきたんだし。

あのまま神竜族の長に殺されて、二度と戻ってこなかったら。

今頃俺達、こんな呑気にはしていられなかった。

「良かった。マシュリ君、何も罰を受けずに済んで…」

目の前で拷問を見せられるんじゃないかと、ハラハラしていたのだろう。

シルナはホッとしたようにそう言って、安心してチョコレートを食べ始めた。

「今日はチョコとクルミたっぷりの、さっくさくチョコビスコッティだよ」

あ、そ。

嬉しそうで何より。

学院長室の中では、マシュリがカリカリをカリカリ言わせながら食べ。

シルナがビスコッティをカリカリ食べているという、異様なカリカリの光景が広がっていた。

シュール。

「羽久も食べよう、ビスコッティ。ほら」

「いや、俺は別に…」
 
「じゃあ、こっち食べる?美味しいよ、このカリカリ。仄かなマグロの香りが…」

「そっちはもっと要らねぇよ」 

それは猫用だよ。誰が食べるか。

それよりも。

生徒に罰を与えるなと言われたから、罰を与えるつもりはないけど。

でも、ちゃんと言っておくべきことがある。

「あのな、マシュリ。この際、もう…出ていくなとは言わないよ。散歩だろうと、猫の集会だろうと、行きたいところに行ってくれば良い」

お前は多分、本能的に一箇所に留まることを嫌うんだろうし。

猫の集会とか、しょっちゅう行ってるみたいだからさ。

別に行ってくれば良いよ。好きなところに。

「え、良いの?集会行っても…」

「良いよ。この際、もう好きなところに行けば良い」

「…そっか。それは助かるよ…。この間集会で、来年の役員に選ばれたばっかりだから」

猫の社会に、役員なんてあんの?

世知辛っ…。

「何処行っても良いから…そのときはちゃんと、行ってきますって俺達に言ってから行って来い」

そのときは俺も、行ってらっしゃいって見送るから。

「そして必ず、ただいまと言って帰ってこい」

それが、出掛けても良い条件だ。
 
この場所がマシュリの居場所で、家で、帰ってくる場所なんだからな。
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