神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…節分だと?

「明日ってね、節分の日なんだよ」

と、何故かドヤ顔で教えてくれるベリクリーデ。

「いや…別に、知ってるけど…」

何でドヤ顔なんだ?

俺が知らないとでも思ったのか?

知識でお前に負けるようなことがあったら、俺は恥ずかしさのあまり、日の下を歩けないよ。

「お前こそ、節分って何する日か知ってるのか?」

「勿論。知ってるよ」

えへん、と胸を張って答えるベリクリーデ。

ふーん…。知ってる、ねぇ…。

えらく自信満々のようだが、俺は額面通りには受け取らないからな。

今まで何度、自信満々ベリクリーデの間違った知識に騙されてきたか。

こいつの頭の中の常識は、一般人のそれとは大きく異なっていることを忘れてはいけない。

「じゃあ、何をする日なのか言ってみろ」

「…何で尋問っぽいの?」

「良いから、言ってみろって」

ちゃんとベリクリーデの口から聞いて、お前が間違っているか否か判断してやるから。

するとベリクリーデは、相変わらずえへん、と胸を張って答えた。

「豆とイワシを挟んだ恵方巻きを、自分の歳の数だけ作って、それを鬼に食べさせて鬼退治する日なんだよ」

「うっ…。…うーん…?」

なんつーか、その…。

…ベリクリーデなりに、節分を理解しようとしている、その努力は感じる。

案の定全然分かってないんだけど、節分のこと言ってるんだろうな、って理解させてくれるところが凄い。

器用なんだか、不器用なんだか…。

…とりあえず。

「…あのな、ベリクリーデ。なんか違うぞ」

「え?」

「豆とか恵方巻きとか、出てくるキーワードは間違ってないんだけどな…」

それらのキーワードが、上手く繋がってないって言うか…。

…間違ってんだよ。とにかく。

「鬼退治じゃないの?」

「いや、鬼退治は合ってるんだけど…。別に、恵方巻き食べさせて撃退する訳じゃないから」

「えっ?嫌がる鬼に、無理矢理歳の数だけの恵方巻きを、口の中に押し込むんじゃないの?」

それはそれで拷問だな。

豆を投げられるのも嫌だろうけど、無限恵方巻き地獄も最悪だ。

「ジュリスは歳がいっぱいあるから、その数だけ鬼に食べさせたら、何匹も撃退出来そうだね」

「まず、俺の歳の数だけ恵方巻きを作るのが無理だろ…」

何本になると思ってんだ?

ルーデュニア聖王国から、恵方巻きの材料が枯渇するわ。

違うんだ、ベリクリーデ。そうじゃないんだよ。

いや、あながち間違ってはいないのかもしれないけど…でも違うんだ。
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