神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「よし、それじゃあジュリス」

「…何だ?」

それはさておき、と言わんばかりに、くるりとこちらを向いて。

「恵方巻き作ろっか」

まるで以前から約束していたかのように、普通の顔してそう言った。

…何故?

俺は何も聞いてないし、何ならこれから溜まってた書類仕事を片付けるつもりだったのだが?

「恵方巻き食べたいなら、その辺で買ってこいよ」

この日になると、大抵どのスーパーでも売ってるだろ。恵方巻き。

しかし。

「やだ。自分で作りたい」

お前のその、何にでも自分から挑戦しようとする積極的なところは、評価に値するんだがな。

それで何故、そこにいつも、俺を巻き込むんだ?

自分一人でやっとけよ…と思ったが。

こいつに何かを一人でやらせたら、周囲への被害が半端じゃない。

どうせまたあれだよ。俺のもとに部下の一人が半泣きで駆けつけてきて。

「ジュリス隊長、ベリクリーデ隊長がご乱心を…!」とか言って、連れてこられるんだよ。

そして駆けつけてみたら、そこは既にベリクリーデによって、阿鼻叫喚の地獄絵図みたいになってて。

そんな状態のベリクリーデを助けるのも、惨状と化した部屋を片付けるのも、全部俺の役目なんだ。

毎回そのパターンじゃん。俺もう、あれ飽きたよ。

あんなのもう御免だから、ベリクリーデには是非とも大人しくしておいて欲しい。

何なら、俺が恵方巻き買ってくるから。

買ってくるだけで良いなら、いくらでも買ってきてやるから。

だから、どうか大人しくしておいて欲しい。

…と、思ったが。

「材料買ってきたんだよ、ほら。豆とイワシ」

やる気満々のベリクリーデは、既に材料を買い揃えていた。

あぁ、うん。結局巻き込まれるパターンな。

はいはい、分かったよ。畜生。

溜まった書類仕事を片付ける為に、今夜は徹夜確定だな。
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