神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「他には?お前、何を買ってきたんだ?」

どうせ他にも色々あるんだろ。ベリクリーデのことだから。

毎回毎回、スーパーに行く度に爆買いしてきやがる。

しかし、毎回買ってきたものを捨てるような真似はしないから、そこは素直にベリクリーデの良いところだと思う。

見当違いなものばかり買ってくるけど、食べ物はちゃんと大事にするんだよな。

それなら、そもそも間違えて買ってくるのやめてくれ。

「恵方巻きの材料だよ」

「具体的には?」

「えーっと…。こっちが小麦粉」

…小麦粉?

「こっちがお塩で、こっちはイチゴ」

塩?…イチゴ?

「こっちははちみつ」

はちみつ…?

「こっちはラム酒で…」

…ラム酒?

「こっちはバニラエッセンス」

バニラエッセンス…?

「あっ、それから、恵方巻きに一番大切なものを買ってきたよ」

恵方巻きに一番大切なもの?

「はい、板チョコ」

「…お前はシルナ・エインリーか?」

以上、ベリクリーデの買い物袋に入ってたものの全てである。

恵方巻きの材料になりそうなものが、何一つ入ってなかったんだが。

俺はこれから、錬金術でも見せられるんだろうか?

「よし、それじゃ作ろっか」

「作ろっかって、何を?」

「だから、恵方巻きだよ」

成程、よく分かった。

俺の常識図鑑に載ってる「恵方巻き」と、ベリクリーデの常識図鑑に載ってる「恵方巻き」は、どうやら全く違う食べ物であるらしい。

恵方巻きって言ったらさ…。酢飯に、刺し身とか玉子焼きとかカニカマとか挟んで、海苔で巻いた食べ物だと思ってた。

それが一般的な恵方巻きなのでは?

しかし、ベリクリーデの思う恵方巻きは…。

「お前、恵方巻きが巻き寿司のことだって知ってるか?」

「え?果物とチョコとクリームを挟んだケーキのことでしょ?」

それは恵方巻きじゃない。

ただのロールケーキだ。

「何処からその情報を仕入れてきた…?」

「イーニシュフェルト魔導学院の学院長が言ってた。嬉しそうに」

シルナ・エインリーが?

あいつが入れ知恵したのか。ベリクリーデに。余計なことを。

「節分の日には、節分限定恵方巻きロールをたくさん注文して、全校生徒で食べるんだって。人数分注文したんだって」

「…何やってんだ、あの人…」

「そしたら、雷魔法使う女の先生に拳骨食らってた」

「…本当に何やってんだ…」

それがイーニシュフェルトの里の賢者のやることか?

威厳というものが皆無だな。
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