神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「もぐもぐ。羽久が私に失礼なこと考えてる気がするけど。もぐもぐ。気にならないくらい美味しいな〜」

あっそ。

そりゃ良かったな。

「あぁ、チョコドーナツ…。なんて美味しいんだろう。皆チョコドーナツを食べたら良いのに。そうしたらきっと、世の中から争いなんてなくなるはずだよ」

至極真面目な顔して言ってるものだから、いまいち突っ込みにくいが。

チョコドーナツで争いのなくなる世界とは。随分狭い世の中だな。

「は〜幸せだな〜」

…そりゃ良かったな。

「はいっ、羽久はいっ!チョコドーナツあげる」

俺にまで寄越してきた。

まぁ食べるけどさ。美味しいけどさ、普通に。

俺はシルナほど甘い物、ってかチョコレートが好きな訳ではないんだよな。

なんてシルナに言ったら「え?何で?」って心底びっくりした顔で聞かれたことがあって、返答に困った。

何でって何だよ。

世界中全ての人間が、自分のようにチョコレートが好きだと思うなよ。

「まだまだいっぱいあるからね!どんどん食べてね!」

「まだまだいっぱいって…。一体どんだけ買って、って、多っ!?」

シルナの手元には、ダース単位で購入されたドーナツの山があった。

しかも、全部チョコ味。

それだけあるなら、プレーンとかストロベリーとか、他の味もあって良いものを。

さては店に置いてあったチョコドーナツ、全部買い占めてきたな?

この迷惑客め。

「そんなに買ってどうするんだよ…?」

こんな浪費をしているのを、イレースに見られてみろ。

脳天に雷食らうぞ。

いや、いっそ食らってしまえ。

馬鹿につける薬はないと、イレースがよく言ってるが…あれは本当だな。

「羽久が私に失礼なこと考えてる気がする…!」

考えてるからな。

「でもチョコドーナツが美味しいから、気にならないや!」

あっそ。

「それに、羽久。皆で食べたらあっという間だよ、こんなの。あっという間」

「皆で…って」

「まず羽久でしょ。あとイレースちゃんでしょ?天音君でしょ?それからナジュ君と」

他の教師陣の名前を挙げるシルナ。

俺以外誰も来てないんだけど、それは?

「それに、令月君とすぐり君にもあげなきゃ!」

あいつらも来てないな。

イレースは多分職員室、天音は保健室。

ナジュは恐らく、また稽古場で生徒に媚び売ってるんだろう。

で、令月とすぐりは…。

「あいつらは…また園芸部の畑かな」

これだけ園芸部に入り浸ってるんじゃ、もう暗殺者じゃなくてお百姓さんだな。

暗殺者よりよっぽど良い。そのままあいつらは、お百姓さんとして生きていってくれ。

と、思ったそのとき。

「呼んだ?」

「ぴゃっ!?」

噂をすれば何とやら。

開けっ放しにしていた窓から、令月とすぐりの二人がやって来た。

…窓から入るな。ちゃんとドアから入ってこいって。

何回言ったら理解出来るんだ?この二人は。

見ろよ。シルナが変な声出してるじゃないか。
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