神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
ベリクリーデはちょこちょこと歩いて、勝手に出発してしまった。

「あ、こら待てよ」

一人で行動するなって。

「何処に行こうとしてるんだ?」

「部屋だよ」

部屋?

「誰の?」

「シュニィの部屋」

「…もう一度現場を見ておこうってことか?」

こくり、と頷くベリクリーデ。

成程、ベリクリーデにしてはまともな考えだ。

捜査が暗礁に乗り上げた…今だからこそ。

もう一度現場をよくよく確認したら、見えてくるものがあるかもしれない。

何か、手がかりの一つでも落っこちていないものか。

エリュティアでさえ見つけられないのに、俺達が現場を確認して、見えてくるものがあるのかどうか…甚だ疑問だがな。

虱潰しに探すのも良いが、それは他の大隊長達がやってくれる。

手がかりに乏しい以上、様々なアプローチから探してみるべきだろう。

「分かった。行ってみるか」

「犯人は現場に帰ってくるんだよ」

「…それは都市伝説だろ?」

さすがに今回は、ホイホイ帰ってくる馬鹿はいねーよ。

帰って…きてくれたら楽なんだけどな。

とにかく、行ってみないことには分からない。

俺はベリクリーデと共に、シュニィの執務室に向かった。

するとそこには、犯人が現場に戻ってきて…。

…なんてことは、勿論なく。

部屋の中はもぬけの殻で、シュニィが連れ去られたときのまま、机の上に書類と筆記用具が散乱していた。

洒落た写真立てが割れ、床に落っこちていた。

写真立ての中には、仲睦まじい家族の写真が入っていて。

それを見て、俺は何とも言えない気持ちになった。

「…」

無言で写真立てを拾い、割れたガラスを払った。

…やっぱり、シュニィが自ら家出したという線は考えられないな。

家族に囲まれて、こんな幸せな顔が出来る奴が、その家族を置き去りにして出ていくはずがない。

何者かに連れ去られたのだ。間違いなく。

何処の馬鹿だ?シュニィを攫い、アトラスを敵に回した馬鹿は。

命知らずにも程がある。

これでもし、万が一シュニィを傷つけでもしてみろ。

犯人が捕まった暁には、この世の地獄を見る羽目になるだろうな。

「何か…手がかりになるようなものは…」

俺は注意深く部屋の中を観察した。

が、やはり目ぼしいものは何も見つからない。

あまりゴソゴソ家探しして、現場を荒らすのも良くないしな…。

残念ながら、犯人も現場に戻ってきてくれてはいないようだし…。

…で。

「ベリクリーデ。お前は何をやってるんだ?」

俺は、部屋の中でボケーッと突っ立っているベリクリーデに声をかけた。
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