神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
さっきからこいつ、ずっとこんな感じで突っ立ってる。

俺が少しでも、ベリクリーデ失踪の手がかりを探してるというのに。

ベリクリーデは何もせず、ただ部屋の窓際に立って、外を眺めていた。

何やってるんだか。

シュニィの部屋を探すと言ったのはお前だろ。

少しは探す素振りを見せろよ。

「…」

しかも、ベリクリーデは無視だった。

「おい、聞いてるのか?」

再度声をかけたが。

「…」

やはり、ベリクリーデは無言。

…何かあったのか?

「ベリクリーデ?どうした?」

「…?…??」

ベリクリーデは、きょとんと首を傾げていた。

…本当にどうした?

「何か見つけたのか?」

俺はベリクリーデの横に立ち、同じように窓の外を注意深く見つめた。

…これと言って、手がかりになりそうなものは見つからないのだが。

ベリクリーデには何が見えてるんだ?

「ベリクリーデ?」

「…悪い人…」

は?

「悪い人みたいだね。シュニィを攫ったのは」

「…」

…いきなり何を言い出すんだ?

質問の意図が読めないんだが…。

「そりゃ…悪い人だろ?誘拐犯なんだから…」

どんな事情があろうと、人様を誘拐するような奴が良い人なはずがない。

誘拐は犯罪なんだから、それをやってるって時点で犯人は悪い人だろうよ。

今更それがどうした。

しかし、ベリクリーデが言いたいのはそういう意味ではなかった。

「凄く悪い人だよ」

「まぁ…そうだな。聖魔騎士団副団長を誘拐したんだから」

「この世に存在しちゃ駄目な人だ」

「…」

…そこまで?

そこまで言うか?

そりゃ確かに、アトラスからしたらそう思うかもしれないけど…。

「…ううん、人ですらない…。人間の…出来損ないみたいなものだよ」

…今日のベリクリーデ、やけに攻撃的じゃないか。

自分が誘拐されたときでも、そんな恨み言は言ってなかったのに。

「どうしたんだ?ベリクリーデ…」

「何でこんなモノが、この世に存在してるんだろう…」

「…」

普通じゃない、と思った。

ベリクリーデは犯人が憎くて、こんなことを言ってるんじゃない。

そうじゃなくて、ベリクリーデには見えているんだ。

…犯人の、姿が。

例えこの場にいなくても、何かを感じ取っている。

「…ベリクリーデ、落ち着いて…。詳しく話してくれるか」

「うーん…。でも、はっきり分からない」

「はっきりじゃなくて良い。お前に分かることを、可能な限り言葉にして伝えてくれ」

「うん、分かった」

ベリクリーデの一連の抽象的な言葉の意味を、俺はすぐに理解することは出来なかった。

このときベリクリーデが行った言葉の意味を理解するのは、もっと先の出来事だった。
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