神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
――――――…誰もが私を探して動き始めた、その頃。




「…う…」

私は暗闇の中で目を覚まし、腕をついてよろよろと身体を起こした。

…いつの間にか私は、簡素なベッドの上に寝かされていた。

私は…ここで何をしてるんだろう?どうしてこんなところに…?

そもそも、ここは何処なんだろう…?

時刻を確認しようと、私は自分の手首を見ようとした。

しかし、嵌めていたはずの腕時計は、いつの間にか消えていた。

部屋には時計はおろか、窓もなく、時間を推定出来るものは何もなかった。

…今、何時なのだろう?

分からないけれど、体感的にはもう半日近く経っているような気がする。

…皆、私がいなくなったことに気づいているはずだ。

「…アイナ…。レグルス…」

私は二人の子供達の名前を呼んだ。

二人共、私が帰ってこなくて不安がっているかもしれない。

子供達が私を求めて泣きじゃくるところを想像すると、思わず胸を掻き毟りたくなった。

そして。

「…アトラスさん…」

私の愛するあの人は、今頃私を探しているだろうか?

突然姿を消した私のことを、どう思っているだろう?

面倒な事件を起こしてくれた、と思っているだろうか。

まさか、早々に捜索を諦めてはいないだろうと信じたいが…。

「…」

…ここでじっとしていても仕方ない。

助かりたいなら、助けを求めるより先に、自分から助かろうとしなければ。

私は立ち上がって、まずは自分が今いる部屋から出ようとした。

幸い、手枷や足枷などの拘束具はつけられていなかった。

壁も床も天井も、剥き出しのコンクリートで囲まれていた。

窓もない部屋で、唯一の出入り口は部屋の隅にある鉄の扉だけ。

私はその扉に近づこうと、一歩歩き始めた。

…そのときだった。






「…開かないよ、その扉は」

「っ…!?」

不意に、部屋の中に知らない人間の声が響き。

私は思わず、立ち止まって声のした方向を振り向いた。

同時に、部屋の灯りがぱっとついた。

その人物は、簡素な鉄製の椅子に座って私を見つめていた。
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