神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「…そんなつまらない脅しが通用すると思った?」

私の脅しに対して、彼は冷たくそう答えるだけだった。

…やっぱり駄目ですか。

まぁ、そうですよね。

その程度で屈するなら、そもそも私を誘拐しようなどとは思わないでしょう。

でも、私だってそう簡単に諦める訳にはいかない。

仲間が助けに来てくれる前に、自分の力で脱出してみせる。

「答えてください。あなたは何者なんてす?」

「…」

「何の為に、私をここに連れてきたんですか。何か目的があるんでしょう?」

「…」

私の質問に、彼は答えなかった。

秘密、ということですか。

良いでしょう。答えたくないなら、答えなくても。

「私を人質に、何かしらの対価を要求しようとしているなら…それは無駄ですよ」

あらかじめ、釘を刺しておく。

私を人質にして、聖魔騎士団に対して対価を要求しようとしているなら。

お金でも権利でも何でも良い。私を人質にするつもりなら、それは無意味だということを教えなくては。

「私など人質にはなりません。聖魔騎士団には、私より遥かに優れた聖魔騎士の皆さんがいるんです」

私の身に何かあっても、すぐにでも私の代わりになれる方がたくさんいる。

私である必要などない。

「誇り高き聖魔騎士団は、誘拐犯の脅しに屈することはありません。あなたが何を企んでいようと…それは無意味なのです」

「…自分の命に価値があるとは思わないの?」

…食いつきましたね。

本当に私を人質にするつもりだったんでしょうか?

「…全く無価値ではないでしょう。しかし、私の代わりになる方はいます」

「…」

「ですから、私を人質にするのは諦めることです」

毅然として私が言うと、彼はしばし無言で、じっと私を見つめた。

今が攻め時かもしれない。

「今すぐ、私を解放してください。事が大きくなる前に…。あなたの為でもあるんですよ」

これ以上罪を重ねてしまったら、さすがの私でも庇いきれなくなってしまう。

そうなる前に、取り返しのつかない罪を犯す前に、こんなことはもうやめて欲しい。

誰の為にもならない。

「…そんなに帰りたいの?」

「…帰りたいに決まっています。仲間のもとに…家族のもとに」

当たり前のことを聞かないでください。

だからこそ、こんなにも必死になって…。

すると。

「…良いね、君は」

「…え?」

彼は表情一つ変えずに、じっと私を見つめてそう言った。
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