蜜別居?(2年振りに逢った旦那は隣に住んでました!浮気相手と一緒じゃなくて良かったです!)
「3階フロアにお客様が来られてるそうです」
事務作業で追われる私に今年入社したばかりの笠木(かさき)君から言われ渋々館内へ足早に向かう。
南館3階は他の館と違い若い層向けの高級ブランドが店舗を構えていてこの手の呼び出しは入社当時からの購入して頂いてる常連のお客様が多い。
「橘チーフ。あちらのお客様です」
3階でも群を抜いた超高級ブランド店。
店舗の一角に設けてあるカフェスペースで足を組みスタッフから出されたコーヒーのカップを優雅に置いて私に手を上げた。
「安見様お呼びでしょうか」
棒読みの私と頬を染めたスタッフの顔は対照的過ぎる。
「君は下がって良いよ。コーヒー美味しかったありがとう」
「ああ…ありがとうございます!」
スタッフはより頬を染めて軽い足取りで別のお客様への対応に行ってしまった。
「御用は何でしょうか。スタイリスト御希望なら別の担当か外商を御社に向かわせますけど」
出来るだけ丁寧に早く話してこの場を離れたい。
「せっかくお詫びを貰いに来てやったのに。この嫁は、ぐふッ!!」
「お客様、口元に虫が」
嫁とかこんな場所で言われても困る!!
私の結婚を知ってる人いるけど相手を知ってるのは同期の仲良しだけ。
「まじ死ぬかと思った…お前力入れすぎ」
「あらぁ、申し訳ございません。用がないなら他にもお待たせしておりますので」
そんな用はない。
あるのは大量の事務作業のみで退勤時間にも関わらず残業が決定してる。
「他に誰待たせてんの」
「お客様に答える義務はありません」
理由が無い以上答える必要ないけど瀬名からの視線が痛い。
仕方なく呼び出し用の携帯を内ポケットから取り出し意味もなく触る振りをした。
「他の者を呼びます。その者に対応して貰って下さい」
「冷たいね。この百貨店は…お詫びはいいや。じゃあ」
瀬名も携帯を取り出して何処かへメールを打ちにんまりと微笑んだ。
ブーッと私の携帯が震え見ると部長の名前が画面上に出てる。
一応瀬名を見ると「どうぞ」と言うから指をスライドさせた。
『安見様から連絡があって今度のショーの打ち合わせをしたいらしいんだよ。3階に来てるみたいだから今すぐ頼むよ』
目の前にいまーす…何て言えず、
「部長、私も他にも予定が…それよりその案件企画室でも良くないですか?」
『そこを何とか頼むよ。株主だし今回は君の企画だろう?』
瀬名は涼しい顔をして冷えてるはずのコーヒーを優雅に飲んでる。
(…こいつ嫌がらせだ!!)
「分かりました…」
部長の懇願と自分の企画が破棄されるわけにもいかず携帯を内ポケットに戻した。