静穏総長も、時には激しく愛したい

「そう緊張するなよ。春風だけじゃなく千秋奏の女だったなんて、こっちは気分アガッてんだから。

だからよ、ガタガタ震えてねーで……


笑えって言ってんだよ!!」


「っ!」



ヒュッ


大きな拳が、私の顔に振って来る。

まったく予想できなかった私は、恐怖で目をつむることも叶わず、痛みがくるのを待つしかなかった。



「(奏さんっ!!)」



最愛の人を心の中で叫んだ、

その時だった。



「じゃあさ。お前は今から地獄に落ちるわけだけど――笑ってくれるよな?」



パシッ


私に降り注ぐ拳を、間一髪で止める、大きな手。

守ってくれた手は私の鼻先に当たり……。覚えのある冷たい温度に、思わず涙が流れた。



「(この手は……っ、)」



この手を、この体温を、覚えてる。
忘れるはずがない。

だって、ずっとずっと……

私を守ってくれた人だから。




「遅くなってごめんね、澪音」

「かっ、」



奏さん――



その名前を口にした時、

手の奥で、灰色をした優しい瞳と目が合った。
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