静穏総長も、時には激しく愛したい

震える手を、もう片方の手で抑え込む。その間も、戦況は目まぐるしく変化した。



「夜野、いけ!」

「――うん」



奏さんが周りを蹴散らす中、ついに夜野さんが、夕暮の前までやって来た。

肩が上下に動き息の荒い夜野さんと、今まで座って静観していた夕暮。体力の差は、歴然。



「思い出すなぁ。お前が昔、俺の暴走族に入りたいって言った時も、こんな感じだったなぁ」

「……さぁ、覚えてないよ」



二人の会話に、疑問を覚える。



「”俺の暴走族”……?」

「そっか。澪音ちゃんは知らないよね。
昔ね――」



夜野さんは昔、夕暮が総長を務める暴走族に入った。そして、夕暮の右腕になった。

だけど自分よりも族の中で目立つ夜野さんのことを、夕暮は気に入らなくて……夜野さんを、犯罪者に仕立て上げた。

警察に尋問され、夕暮も仲間も誰も助けてくれず、全てに絶望した夜野さん。そんな彼を助けたのが春風さんだ――と。
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