静穏総長も、時には激しく愛したい
「なにって、……げ⁉」
「最悪なのと会っちまった!」
黒髪の男の人を見ただけで、不良たちは顔色を変えた。その表情は、まるで怯えてるみたいで……。
「(に、逃げた方が、いいのかな……⁉)」
私のとって味方なのか、敵なのか。分からないから、安心できない。
だけど、
「おい、女」
「へ……?」
ずっと地面に転がる私を見て、男の人は気怠そうに目を寄こす。
「目、瞑ってな」
「目……?」
まさか、私が目を瞑っている間に……私を攫うとか⁉
ありえる。だって、ついさっきも、そこの不良に攫われそうになったわけだし!
「いや。こ、怖いです……!」
「……チッ」
素直に「怖いです」というと、男の人は隠すことなく舌打ちをした。
その音が、この狭い路地裏に天高く響き――この場の雰囲気を、全てのみ込んでいく。